【舞いあがれ!】朝ドラとしては珍しい...? 「涙腺ポイント」は「コツコツと頑張る」ヒロインたちの姿

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「コツコツと頑張る人々」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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【舞いあがれ!】朝ドラとしては珍しい...? 「涙腺ポイント」は「コツコツと頑張る」ヒロインたちの姿 pixta_19667595_S.jpg

福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第4週が放送された。

本作は、ヒロイン岩倉舞(福原)がものづくりの町・東大阪と自然豊かな五島列島で様々な人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。

今週は、様々な場面で様々な人が「日々コツコツと頑張る姿」が描かれた。

実はこれは朝ドラではかなり稀なケース。

なぜなら「コツコツ頑張る姿」は画的に「地味」だから。

そこを丁寧に描いて視聴者の心をつかむところが、実に巧い。

浪速大学の航空工学科に入学した舞(福原遥)は、サークル「なにわバードマン」に入部する。

人力飛行機に惹かれた舞は、設計担当で3回生の刈谷博文(高杉真宙)や2回生のパイロット・由良冬子(吉谷彩子)ら個性的な先輩たちと共に、琵琶湖で開催される「イカロスコンテスト」に向けて「スワン号」作りに取り組む。

しかし、スワン号は書類審査で不合格に。

皆、落胆する中、鶴田葵(足立英)は、代わりに琵琶湖で女性パイロットの飛行距離記録に挑戦しようと提案。

新たな目標に向かって由良はますます厳しいトレーニングと減量に励み、部員たちはスワン号作りに邁進し、舞はそれと並行して、久留美(山下美月)がアルバイトするカフェ「ノーサイド」で部費と活動費を工面するためバイトを始める。

ある日、舞と久留美、貴司(赤楚衛二)が久しぶりにお好み焼き屋「うめづ」に集う中、東大に通い、就活中だったはずの兄・悠人(横山裕)がやって来る。

舞は悠人を無理やり家に連れて帰るが、悠人は就職が決まったこと、3年で辞めて投資で大金を稼ぐことを告げ、父・浩太(高橋克典)と衝突する。

一方、スワン号の記録飛行が8月に決まり、6月にテストフライトをするが、スワン号が墜落。

由良は足を骨折し、飛べなくなってしまう。

スワン号を修理し、由良と体格の近い舞をパイロットにする案も出るが、設計担当の刈谷は無理だと言い、引退を宣言。

そんな中、舞の中でパイロットへの思いが芽生えていく。

「先輩のケガでめぐってきたチャンス」ではなく、危険と厳しいトレーニングとみんなの思いを背負うプレッシャーの重さを知った上で、スワン号を飛ばしたいという思いが「パイロット」につながるのが、実に舞らしい。

他に、今週、涙腺が緩む「コツコツ頑張る人々」のポイントを列挙したい。

例えば、10年間で工場を2つに拡大、従業員も18人になり、ネジを材料から作るメーカーに成長した浩太は、夕食を手早く済ませ、「難しいネジ、頼まれてなあ。まいったまいった」と目尻を下げて嬉しそうに工場に戻っていく。

看護師専門学校に通う久留美は、勉強を頑張って授業料免除となり、生活費のためにバイトし、ケータイも自分で買い、日々クタクタになりながらも夢に向かって頑張っている。

父の仕事は相変わらず続かないが、そんな父が夜勤の警備仕事に向かう姿を嬉しそうに見守る。

ガチガチの文系なのにSEになった貴司は、一見迷走のようで、その選択の理由は人間関係の面倒くささから。

そして、働いていたら本を読みたい、詩を書きたいと前よりずっと思うと言い、「自分のやりたいことがはっきり見えて夢に近づいてる気がする」と語る。

そして、「未来の由良(スワン号が飛ぶ日の、今よりもっと軽くてもっと体力のある由良)」に合わせて設計している刈谷と、由良を1メートルでも遠くに飛ばすために飛行機を作る部員たち。

そうしたみんなの思いを背負って、自身を最高の状態に仕上げるため、きついトレーニングにもしんどいなどと一言も言わない由良。

舞はリブ作りがずいぶんうまくなったが、手先の器用さに加え、誰より早く来て頑張っているからということを部員たちは見てくれている。

そんな舞の「お帰りなさい」の言葉に、由良も顔を見て「おつかれ」と返してくれるようになり、自身がパイロットになった理由を教えてくれる。

全く喋らず、ひたすら人力飛行機を作り、そのために留年も続けてきた空山樹(新名基浩)は、とうとう卒業し、地元に帰ることを決意。

これが最後の人力飛行機だと話す。

そして、みんなのコツコツの頑張りを支えているのは、「好き」という思いだ。

舞の飛行機のスケッチを見た部員たちが盛り上がり、銘々に飛行機の話をする姿も、初めて飛行機の話をできる仲間を見つけた舞の嬉しそうな顔も、どれもこれも涙腺を刺激してくれる。

ちなみに、こうした「涙腺ポイント」は本作の場合、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目のほうが多く発見される気がする。

ぜひとも繰り返し見て味わうことをお勧めしたい。

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文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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