【ばけばけ】トキ(髙石あかり)たちの「優しい嘘」に感動する一方、だいぶ心配な"彼"の様子

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「トキの出生の秘密」について。あなたはどのように観ましたか?

【前回】髙石あかり、岡部たかし、池脇千鶴...役者の力を堪能できた新・朝ドラ2週目を振り返る

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ばけばけ】トキ(髙石あかり)たちの「優しい嘘」に感動する一方、だいぶ心配な"彼"の様子 pixta_43089317_M.jpg

小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とその妻・小泉セツをモデルにした、髙石あかり主演のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』。第3週「ヨーコソ、マツノケヘ。」では、トキ(髙石あかり)と銀二郎(寛一郎)の新婚生活と出生の秘密が描かれる一方、「家」と「血」で縛られる者達の苦悩と愛情が濃厚に描き出された。

トキと銀二郎の新婚生活は、並んで朝日に、出雲大社の方角に向かって手を合わせ、挨拶するところから始まる。しじみ汁の作り方を母・フミ(池脇千鶴)に教えてもらい松野家の味を受け継ぐトキと、トキや司之介(岡部たかし)と同じく、しじみ汁の美味さにしみじみ「ああー」と嘆息してしまう息ぴったりの銀二郎。仕事に向かう道中も仲睦まじく夫婦一緒。これまでずっと一緒だったサワ(丸井わん)が所在なさげに後ろからついていく図に、疎外感と寂しさが滲む。

しかし、結婚は2人のものではない。銀二郎は「松野家の跡取り」「立派な当主」になるためしごかれ、祖父・勘右衛門(小日向文世)には家の「格」の違いをチクチク言われる。武士の時代はとうに終わっているというのに。朝ドラでは嫁いびりが度々描かれてきたが、本作では結婚早々に婿いびりが描かれるのが異色だ。

しかも、一生懸命働いた賃金を丸ごと松野家の借金返済に持っていかれ、狼狽えても、さらに仕事を増やした方が良いかと尋ねる働き者でお人好しの銀二郎。だいぶ心配である。

家父長制に苦しめられるのは、銀二郎だけではない。世の中が不景気になる中、雨清水家では長男・氏松(安田啓人)が父・傳(堤真一)に自分を超えろとプレッシャーをかけられる一方、三男の三之丞(板垣李光人)は誰にも見えていない透明人間状態。

経営難で借金を抱えた氏松が誰にも相談できなかったのは気の毒だが、不意に兄が出奔し、金策に走る傳の代わりに、社長代理を務めることになる三之丞はさらに気の毒である。これまで何も教えられておらず、試合はおろか練習にも参加させてもらっていなかった三之丞が突然バッターボックスに立たされるような惨い展開だ。

雨清水家では賃金が払えないことから女中にお暇を出す中、傳が倒れる。これまで何もしたことのない「お姫様」のタエ(北川景子)は、粥を作ろうとするが、焦がしてしまう。タエに看病は無理だとトキが指摘すると、「ならどうすれば良いんだよ!」と声を荒げる三之丞。

そこでトキはタエの代わりに傳の看病を申し出る。しかし、娘を送り出すフミが浮かない顔をしていることにトキは気づいていた。

実はトキは、傳とタエとの子で、生まれる前から子のできない松野家に跡取りとして行くことが決まっていたのだ。実の母親のもとへ娘を送り出す場面で、自分のもとに戻ってこなくなるのではないかという不安や執着を一番見せるのが育ての母だというのは、朝ドラ『ブギウギ』でも見た流れだ。BK(大阪制作)朝ドラは、善悪を超えた、人間のどうにもならない業を描くことに長けている。

それにしても、雨清水家が「トキの出生の秘密」をトキ本人に話してしまうのではないかとけん制し、本人にわからないよう雨清水家と松野家総出で「あの、あの話」と探りを入れ合う第2週のコント的展開が、こうしたシリアス展開に転じるとは。

しかも、その秘密を聞いてしまった銀二郎に、暗闇で灯に照らされつつ、「なんも聞いとらんよな?」と尋ね、頷くと「嘘つけ! なぜおった? そして、(司之介に)なぜ喋った?」とドン詰めする勘右衛門はまるで必殺仕事人を見ているよう(しかも、庄屋や悪代官のほう)。

何かと比較される宿敵・傳への見舞いとして「毒入り牛乳だ」と言ってトキに牛乳を託す司之介も、とりたてのしじみを渡すフミも、トキの秘密を知り、その光景を物陰から見守る銀二郎も...全員泣ける。

一方、雨清水家では傳もタエも、実子・トキと過ごす時間に幸せを感じていた。粥を口に運んでもらい、照れ笑いする傳と「ふふふふ、もうーー!」と低い声で笑うトキの様子は、親子のようで親友のようで。堤真一がスマートで現役感たっぷりなだけに、ともすれば恋愛関係にも見えかねないシーンでいやらしさが出ないのは、二人の役者の醸し出す空気と絶妙な距離感からだろう。非常に難しい塩梅の芝居だ。

さらに、トキに対し、しじみ汁の作り方を教えろと言うタエ。トキはフミから教わった通り「コロコロこする」と教え、一生懸命洗うタエに「素晴らしいコロコロでございます」と褒め、タエの顔がほころぶ。母から子へ、そして子からもう一人の親へ教える「家族の味」の伝承も朝ドラでは実に珍しい光景だ。

実子であるトキに対し「母親の顔は見せるまいと誓った」と言うタエの思いを知った上で、幼いトキから、「教師になるからお茶や三味線の稽古は要らない」と言われた彼女の思いを想像すると、胸が痛む。

そんな中でも工場の経営はさらに悪化し、女工達が馬車馬のように働かされる中、検番(足立智充)がミスをしたせん(安達木乃)に手をあげてしまう。それを、少し体調が回復し工場を訪れた傳が工場目撃してしまい、責任者である三之丞を叱責。

すると、三之丞は偶然聞いてしまったトキの秘密――実は傳とタエの子で、自分の姉だったことを口にし、「手放して愛おしくなるなら、私もよそで育ちたかった」と腹に抱えてきた思いを傳に伝えるのだ。

「跡取り」が特別であることは、時代的に当然だったろう。しかし、三之丞の思いを聞いた傳とタエの悲しそうな表情を見る限り、軽視していたつもりはなく、三男は家業に巻き込まれず自由に生きてほしいという不器用な愛があったのかもしれない。

しかし、この三之丞の衝撃の告白に、トキは動揺しなかった。生みの親と育ての親を知っていた、自然とそうなのではないかと思っていたと言う。

それを受け、あえて傳は言う。
「お前はわしとおタエの子ではない、松野司之介と松野フミの子じゃ。生まれたときから、そしてこれからもずっと」

トキとの時間を楽しみつつ、タエに「いつか親子として振る舞える日がくることを願っておる」と語っていた傳の渾身の嘘だ。だが、トキも言う。


「そのことも知っちょります。おじさま、おばさま」

それぞれが優しい嘘を選択し、傳はこの世を去る。

「1人になりたい、取り乱したい」と言うトキに、松野家は口々に「取り乱して来い」と明るく送り出す。これが松野家であり、辛い中でもいつも明るい松野家にトキは救われてきたのだろう。

しかし、いざ一人になっても取り乱し方がわからないトキに声をかけたのが、サワだった。「どげしてこげなときにいつもおるの?」に「どげしてだろうねえ」というサワを全力でハグしたくなる。こういう時に一番近くにいてさりげなく寄り添ってくれるのは、やっぱり親友だ。トキはここで始めて泣きじゃくる。

それにしても、フミの不安も、雨清水家と松野家の事情も察する勘の良いトキが、優しい婿・銀二郎の懸命の作り笑顔には気づいていないのがまた、悲しい。

次週は東京へ旅立つようだが、はたして夫婦は? 松野家はどうなるのだろうか。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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