火事から一週間。疲労困憊で空腹...管理人に教えてもらった洋食屋を探すことに/キッチン常夜灯(3)

翌日の土曜日は快晴で、当たり前のように朝から忙しかった。  

予想はしていたが、昨日休んだバイトは二人とも来なかった。それはそうだ。病み上がりの体で、平日の倍以上忙しい週末の職場になど誰が飛び込むものか。

「ファミリーグリル・シリウス」の人気メニューはハンバーグとドリアである。  

チェーン店に違いはないが、大手企業が手掛けるファミレスチェーンとは違い、メニューには洋食しかない。それゆえ本格的な味を謳っているが、船橋にあるセントラルキッチンで仕込まれた料理を各店で仕上げて提供しているだけである。  

その仕上げも主にバイトがやっているのだから、セントラルキッチンで作られる料理がいかに優秀かわかる。  

定番のメニューしかない割にいつも賑わっているのは、当たり前の洋食ほど人気があるということだろう。それに世界共通だ。観光客で賑わう店で働いていると、ますますそれを実感する。  

その日の私は八面六臂の働きをした。ホールを走り回り、料理が出てこないと言われてキッチンのヘルプに入る。そうかと思えば、レジを打ち間違えたと呼ばれてお客さんに謝った。今日も賄いなど食べる暇はない。バイトの休憩を優先しなければ、彼らは不満を募らせて辞めてしまうし、本社からもきついお?りを受けることとなる。  

激甘の缶コーヒーとエナジードリンクで何とか一日を乗り越え、午後十一時半、ようやく電車に乗り込んだ。  

土日出勤のいいところは、平日よりも電車が空いていることくらいだ。何か物足りないのは、倉庫に移り住んで以来、隅田川を越えることがなくなったせいだろう。毎晩、ガタゴトと鉄橋を渡るたびに、一日の終わりを実感してホッとしていた。  

けれど、今は東京ドームホテルの明かりがある。夜空に浮かぶ遊園地のシルエットがある。それらが近づいてくると、私は一日の終わりに安堵するのだ。  

さて、金田さんが教えてくれたお店に行ってみるか。  

不思議と疲れた体の底から、好奇心が湧きおこってくる。  

今夜もイベント後の若者たちで駅前は賑わっていたが、私は昨日よりもずっと堂々と彼らの間を通り抜けた。  

私はやっぱり飲食店が好きなのだ。子供の頃はあれほど嫌っていたというのに。

 
※この記事は『キッチン常夜灯』(長月 天音/KADOKAWA)からの抜粋です。

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