いま地球に6回目の「大量絶滅」が迫っているのか。過去から現在の危うさを知る『大量絶滅はなぜ起きるのか』

いま、地球には第6の大量絶滅が迫っていると言われている。「大量絶滅」とは、300万年未満の(地質学的尺度で)短い期間に75パーセント以上の生物種が消滅する現象のことをいい、6600万年前に起きた「白亜紀末大量絶滅」がよく知られている。このとき、鳥類型を除くすべての恐竜が絶滅し、生物全体としても78%の種が失われた。過去5億年のあいだに大量絶滅は5回起こったことが知られ、「ビッグファイブ」と総称される。それらがどのようなメカニズムで引き起こされたのかは、いまだ多くの謎に包まれているという。

※これはダ・ヴィンチWebの転載記事です

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『大量絶滅はなぜ起きるのか 生命を脅かす地球の異変』(尾上哲治/講談社ブルーバックス)

尾上哲治『大量絶滅はなぜ起きるのか 生命を脅かす地球の異変』(講談社ブルーバックス)は、5つの大量絶滅のうち、いまから2億150万年前に起こった「三畳紀末大量絶滅」を中心テーマとする。著者自身の研究を振り返り、「大地と生命のつながり」を論考する一冊だ。

地球には約5億3900万年前のカンブリア紀に、化石に残りやすい硬い外骨格(生物の外側を覆う殻)を持つ生物が現れた。化石試料に基づき、そこから現代にかけて生物の多様性が増加してきたことがわかっている。しかし、例外的に多様性が急減する時期が5回あり、それらがビッグファイブだ。その中でも三畳紀末の大量絶滅は、陸も海も関係なく広範囲にわたり、多くの生物種が一斉に絶滅したことで知られる。

著者の専門は「層序学」だ。これは、地層の積み重なりや広がり、各層に含まれる化石から、過去の地球環境を解読する地質学の一分野である。実際に世界中で地質調査をおこない、大量絶滅の原因に迫ろうとしている。本書では著者がおとずれた世界各地の地層が紹介される。

たとえば、岐阜県坂祝(さかほぎ)町を流れる木曽川では、三畳紀末の深海底の堆積物からなる岩石「チャート」が見られる。その中には、ウナギに似た動物の体の一部と考えられる化石「コノドント」が含まれている。コノドントは三畳紀を代表する化石だが、末期に小型化が進み、ジュラ紀を迎える前に完全に絶滅したという。

また、イタリア・シチリア島には、三畳紀に浅い海で形成された石灰岩層が見られ、そこには「メガロドン」という二枚貝の化石が含まれている。その化石は最大で40センチあったが、三畳紀末期には10センチ以下の個体ばかりになる。コノドントと同様、突如として小型化しはじめ、絶滅してしまった。

三畳紀末の化石の小型化は、さまざまな環境で、さまざまな生物に起こっていた。そして小型化した生物は例外なく直後に絶滅してしまったという。なぜ生物は小型化して絶滅したのか?

本書は、こうした三畳紀末の化石の異変を紹介しながら、世界の研究者が提案してきた大量絶滅に関する仮説を解説していく。

たとえば、1989年にバーミンガム大学の古生物学者トニー・ハラムが発表したのは、「海退」が原因になったとする説だ。海退とは世界規模の海水面の低下のことで、実際に、世界各地の三畳紀末の地層にその痕跡が残っている。海退を起こすメカニズムとしては、気候の「寒冷化」が考えられる。寒冷化と海退により、生物の生息域が失われたために大量絶滅が起こったのではないか。

また、チューリッヒ大学の古生物学者マイケル・ハウトマンは2004年に、三畳紀末に起きた「海洋酸性化」を報告した。これは、ヨーロッパの地層に記録されていた石灰岩の堆積停止の理由を説明するものだった。海洋の酸性化が進み、生物による炭酸カルシウムの形成が阻害され、石灰岩の堆積が止まったということだ。ハウトマンは、この酸性化の背景に、大規模な火山活動に伴う大気中の二酸化炭素の増加があったと考えた。

さらに、ハラムの弟子でリーズ大学の古生物学者であるポール・ウィグナルは、海洋の「無酸素化」の証拠を見つけた。三畳紀末の岩石の化学的特徴から、海底に無酸素環境が生じ、有機物の分解が停止したことを明らかにしたのだ。そして、海洋の無酸素化の原因としては、大気中の二酸化炭素の増加が引き起こした地球温暖化に伴う、海洋循環の停止を考えた。

こうした説が正しいとすれば、たしかに生物は強いストレスを受けたにちがいない。では、これらの環境変動を引き起こした「犯人」は?

史上最大級の火成活動か、天体が衝突したのか......。

本書を読み進めていくと、地層から得られるわずかな証拠と、世界中の研究者の知見とが組み合わさり、一見して無関係であったさまざまな現象が、パズルのピースのようにカチっとハマっていく。やがて、ひとつの仮説へと辿り着く。その謎解きを、まるでミステリー小説のような読み心地で楽しめるのが、本書の魅力である。

しかし、ミステリー小説がそう簡単に結末を迎えないのと同じように、本書が挑む謎解きもまた新たな謎へとつながっていく。地層から一つの情報を掘り出すと、そこから更に過去への疑問が生まれる。しかしどれだけ地層から化石を掘り出しても、まだまだわからないことも多い。たとえば数億年前の地球環境は、気温や海水温など、確かなことはわかっていないのである。著者は共同研究者とともに、三畳紀末の海水温を復元する新たな手法の開発に挑んでいるという。なんと地道で壮大な研究なのだろうか。

それでも、ひとつ確かにわかっているのは、過去5回の大量絶滅の原因は人間の活動にはなかったということだ(なにしろ、当時の地球には人類はまだ誕生していなかった)。しかし、現在の地球で起ころうとしている第6の大量絶滅は、人間の活動が原因であると考えられている。本書は三畳紀末の大量絶滅にかんする論考から、現在の地球の状況を顧みることになる。そこで読者は、一歩間違えば取り返しの付かない事態を招きかねない、とても危ういバランスで成り立っている地球の「いま」を知ることになるだろう。

文=すずきたけし

 

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