東野圭吾さんのベストセラー小説を映画化した『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で、味わい深い雑貨店の店主を演じている西田敏行さん。しばらく療養中でしたが、このたび笑顔で元気にインタビューに応えてくださいました。
過去と未来の自分に何を伝えますか?
―ナミヤ雑貨店がさらに特別なのは、この雑貨店に差し込まれた手紙によって2012年の現在と32年前の1980年がつながってしまうことです。2012年の現代を生きる3人の若者たち(Hey!Say!JUMPの山田涼介さん、村上虹郎さん、寛 一郎さん)と、1980年の浪矢さんが手紙を通じて交流する場面にジーンとしました。
西田 若い3人の目が本当にすてきでしたね。きれいで汚れていなくて。それぞれ背負うものがある役なんだけど、その中であのピュアさを出せる3人はすごいなと思いました。3人が未来に向かって胸を張って歩いていく場面がいいんですよ。本当に感動しました。今回は若手の俳優さんが素晴らしかったですね。(ミュージシャン志望の鮮魚店の青年を演じた)林遣都くんなんて、ふとした表情が「なんてジェームス・ディーンなんだ!」と。同じ役者として嫉妬しましたよ(笑)もう僕には、ああいう表情はできませんからね。
―作品を拝見して、今の西田さんならではの表情にはっと惹きつけられることがたびたびありました。その一つが、白紙の手紙がナミヤ雑貨店に舞い込む印象的なシーンです。
西田 白紙の手紙のシーンは僕も思い入れのある場面でした。手紙を読む声が劇中で流れるのですが、僕なりにいちばん悩んだ場面です。でも、いろいろ考えた結果、悩んじゃダメなんだという結論に至ったんです。きれいな声で読もうとか余計なことは考えずに、ただ純粋に自分の思っていることを素直に出そうと思いました。妙な計算が入ってしまうと、自然な言葉ってあっという間に死んでしまうんですよ。白紙の手紙への返事として、あれ以上のアンサーはあるのだろうかと思いますね。とても感動しながら、演じさせてもらった場面です。
―32年の時を隔てた本作にちなんで、西田さんの32年前のことを伺えますか。
西田 1985年で37歳ですね。ちょうど『植村直己物語』や『敦煌』などの映画を撮っていたころ。人間の気力、体力が重なり合って、元気のピークを迎えるのが37歳らしいんです。今、思い出しても、当時は本当に元気でしたね。もしこの映画のように過去と現在がつながって32年前の自分に手紙を書けるとしたら、「あんたの辞書に"不可能"はないんじゃないの?」と聞いてみたいです。
―では、今から32年後は?西田さん、101歳ですね。
西田 それは自信がないな(笑)その時の自分に手紙が書けるなら「あんた、まだやってるの?」って言うかな(笑)でも、今は長生きの人が多いですからね。そこまでやれたら、本当にすてきだし、立派ですよね。
―先ほど、気力と体力のピークが37歳というお話がありましたが、西田さんはその後もピークが続いている感じがします。
西田 いや、だんだん下がっていますよ(笑)ただ、急落はしないかな。俳優の仕事というのは面白いもので、その年齢ごとにできる役どころがあるし、世の中を見ていると、いろいろな人がいるでしょう。こういう人を演じるとしたら、僕ならこう演じてみたいなというのが尽きないんです。だから、年を重ねても、下がっていく放物線がなだらかだといいですね。
取材・文/多賀谷浩子 撮影/Jun Uematsu(西田敏行)
西田敏行(にしだ・としゆき)
1947年生まれ、福島県出身。1970年に青年座に入団。テレビドラマ「西遊記」(78)や「池中玄太80キロ」(80)で爆発的な人気を呼ぶ。88年映画『釣りバカ日誌』に主演、22作まで続く人気シリーズとなる。この秋は映画『アウトレイジ 最終章』の公開が控えている。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』
9月23日(土・祝)全国公開
原作:東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川文庫刊)監督:廣木隆一 脚本:斉藤ひろし 出演:山田涼介、村上虹郎、寛 一郎、成海璃子、門脇麦、林遣都、萩原聖人、尾野真千子/西田敏行 主題歌:山下達郎「REBORN」(ワーナーミュージック・ジャパン)
配給:KADOKAWA、松竹
公式サイト:http://namiya-movie.jp/
2017年 日本 上映時間:129分