東野圭吾さんのベストセラー小説を映画化した『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で、味わい深い雑貨店の店主を演じている西田敏行さん。しばらく療養中でしたが、このたび笑顔で元気にインタビューに応えてくださいました。
名優の意外な悩みとは？
―まず、西田さんが演じた"ナミヤ雑貨店"の店主・浪矢雄治役。本当にぴったりでした。
西田 ありがとうございます。大分県の豊後高田に32年前の街並みを再現して、そこで雑貨店のシーンを撮影したんです。いい街でしたね。幼い頃にタイムスリップするようでした。あのころは人と人の気遣いが今より細やかで、人情が豊かだったでしょう。浪矢は、そういう時代の雑貨店のおやじなんです。実際、僕が子どもの頃、ああいうおやじがいたんですよ。いつも子どもたちを見ていて、「子どもは元気じゃないとな」が口癖で。きっと戦争から帰って来て、子どもたちの声に癒されていたんでしょうね。浪矢を演じる際は、その人の記憶をもとに、色々な人の要素を肉付けしていきました。
―ナミヤ雑貨店は、普通の雑貨店とは違います。夜になると人々が悩み相談の手紙をシャッターの郵便口に差し込んでいく。すると翌朝、浪矢さんからの返事がポストに入っている。さまざまな人がその返事に背中を押され、1歩を踏み出します。
西田 手紙というのがいいですよね。僕も最近はメールばかりで手紙を書かなくなったけれど、書いた人の筆圧が感じられて、紙だから伝えられる温かさがあって。昨年、インターネットで心ない虚偽のニュースを流されたことがあるんです。私の尊厳を何も考えていない内容で、そういうふうに人との関わりを考えている人がいるということが、とても怖いと思いました。人と人が信じ合えなくなったら、おしまいですよね。手紙は、そんな忘れてはならない温かいものを思い出させてくれる。改めていいものだなと思いました。
―もし西田さんがナミヤ雑貨店のポストに相談できるとしたら、何を相談しますか？
西田 そうねぇ......やはり自分にないものを持っている役者さんはうらやましいなと思いますよね。こういう感情は役者である限り、つきまとうんでしょうけれど、「なんとか取り払うことはできないんでしょうかね」と聞いてみたい気はします。浪矢のおやじにもだけど、亡くなった尊敬している三國（連太郎）さんにも聞いてみたいな。きっと「それはしょうがないよ～」って言われる気がしますけど（笑）
―では、子どもの頃の西田さんが悩み相談するとしたら？小学生のころ、エルヴィス・プレスリーのものまねをしたりして教室の皆を沸かせていたそうですね。
西田 そうですね（笑）。当時から映画俳優になりたくて、必ずなれるとどこかで思っていたところがあるんです。同じクラスの友達も「お前なら、なれるんじゃないか」と言ってくれたりしていましたから。でも確実になれるという保証はないから、どこか不安なんですよ。だから、きっとナミヤ雑貨店のポストに「映画俳優になれますか」と書いて入れますね。それで「なれるよ」って返事をもらって、自信をもってまい進するみたいなことが、あったかもしれないですね。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』ストーリー
時は2012年。夜の街をさまよう3人の若者が、たまたま逃げ込んだ空き家。そこは、かつて多くの人々を悩みから救った特別な雑貨店だった。やがて、その夜が彼らの人生を変える奇蹟の一夜となっていく――。
取材・文／多賀谷浩子 撮影／Jun Uematsu（西田敏行）
西田敏行（にしだ・としゆき）
1947年生まれ、福島県出身。1970年に青年座に入団。テレビドラマ「西遊記」（78）や「池中玄太80キロ」（80）で爆発的な人気を呼ぶ。88年映画『釣りバカ日誌』に主演、22作まで続く人気シリーズとなる。この秋は映画『アウトレイジ 最終章』の公開が控えている。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』
9月23日（土・祝）全国公開
原作：東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』（角川文庫刊）監督：廣木隆一 脚本：斉藤ひろし 出演：山田涼介、村上虹郎、寛 一郎、成海璃子、門脇麦、林遣都、萩原聖人、尾野真千子／西田敏行 主題歌：山下達郎「REBORN」（ワーナーミュージック・ジャパン）
配給：KADOKAWA、松竹
公式サイト：http://namiya-movie.jp/
2017年 日本 上映時間：129分
