前編「鎌田實さん「脳の仕組みを上手に使おう」〝愛があれば〞にだまされない(前編)」はこちら。
激しい夫婦げんかでも子どもの脳は萎縮する
福井大学子どものこころの発達研究センターの友田明美教授とハーバード大学との共同研究で、アメリカに住む18〜25歳の約1,500人を対象に調査しました。子どものころ長期的に、ほおに平手打ちを受けるなど激しい体罰を受けた人の脳は、体罰を受けていない人の脳に比べて、前頭前野(ぜんとうぜんや)が19.1%縮小していることがわかりました。前頭前野が縮小すると、ちょっとしたことでキレやすくなったり、うつ病など感情面での問題や、非行などの行動面の問題が出てくることが考えられます。
また、父親が母親に家庭内暴力を振るうのを見て育った子どもは、健康な人の脳に比べて、後頭葉の視覚野という脳の部位が6.1%縮小していたといいます。視覚野が縮小すると、視覚から得られる情報に影響が出る可能性があります。たとえば、目の前で話している相手が、喜んでいるのか、怒っているのか表情を読み取ることが苦手で、その結果、引きこもりになってしまうこともある。
子どもは抱きしめて、ほめたほうがいい
では、子育て中の親はどうしたら、鞭を打たずにすむでしょうか。厚労省研究班では「爆発寸前のイライラをクールダウンする方法を見つけておこう」「親自身がSOSを出そう」と呼びかけています。
ぼくは、医師としてこういう相談を受けたときには、子どもを抱きしめることをすすめています。愛情をもって親が子どもを抱きしめると、親にも、子にも、愛情ホルモンのオキシトシンが分泌されます。
オキシトシンにはストレスを軽減する効果があり、相手を思いやる作用があります。抱き合ったり、手をつないだりすることで、お互いに心が落ち着いていきます。親の怒りが収まります。これが繰り返されると、子どもは愛情豊かな人間に育っていくように思います。おじいちゃんやおばあちゃんが孫を抱きしめてあげるのも大事なことです。
子どもは「ほめて育てる」のがいちばん。人はほめられると、快感ホルモンのドーパミンが分泌されます。低い目標でも達成すればドーパミンが出て「うれしい!」と感じます。そして、その快感をもっと味わいたいために、次なる目標に挑むのです。こうした脳の報酬系という仕組みをうまく利用して、やる気を育てていくことは、「愛の鞭」よりずっと効果的といえるでしょう。
子どもだけではありません。長年連れ添ったパートナーとだって、オキシトシンとドーパミンがよく分泌されるように意識すれば、もっといい関係になれるでしょう。少なくとも、愚痴ばかり言っているよりも、効果はあるはずです。
鎌田實(かまた・みのる)
1948 年生まれ。医師、作家、東京医科歯科大学臨床教授。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。近著に『遊行(ゆぎょう)を生きる』(清流出版)、『検査なんか嫌いだ』(集英社)、『カマタノコトバ』(悟空出版)、『「わがまま」のつながり方』(中央法規)。