1969~85年、お化け番組ともいわれた『8時だヨ!全員集合』で一世を風靡したザ・ドリフターズの高木ブーさん。2017年に84歳で運転免許を返納したことで話題になりました。小池都知事も「モデルケースの1つ」と感謝したという、免許返納に関するエピソードをご紹介します。
「ゴメンナサイ」では済まされない
「免許返納について? ちょっと待ってね......」と、おもむろに横に置いたキャリーバッグをゴソゴソし始め、「これだ」と小さいパンフレットを取り出した高木ブーさん。いわずと知れたザ・ドリフターズで、お茶の間の子どもたちを魅了し続けた笑顔は、85歳になる今も健在です。
パンフレットは『高齢者運転免許自主返納サポート協議会加盟企業・団体の特典一覧』。続いてご自身の運転経歴証明書も取り出し、「免許返納したら、もらったの」とニッコリ。「銀行の金利が高くなったり、ホテルの利用料やスーパーの配送料が安くなったり。知らなかったから驚いたよ。まあ、利用したことはないけど。だって、それ狙いで返納したわけじゃないから」。
本題に切り込んだかと思いきや、スルッと話を外す絶妙のタイミング。たちまちブーさんトークに引き込まれてしまいます。
運転経歴証明書は、運転免許証を自主返納した人が交付申請を行うことのできる証明書。運転免許証に代わる身分証明や本人確認の際に使用できます
「きっかけはね、娘にすすめられたから。うちの前は小学校の通学路なんですよ。『これまで子どもたちを楽しませる仕事をしてきたお父さんがもしも事故を起こしたら......。ゴメンナサイじゃ済まされないよ。自主返納したらどう?』って」。
遠出はしないものの、銀行に行ったり、買い物に行ったり、ちょくちょく運転はしていたブーさん。免許の有効期限はまだ1年残っていたので、それが切れたら更新はしなくていいかな、と考えていたときのことでした。
「それまでも年に1回ぐらい自宅の車庫入れで車をゴリッてこすっては修理してたんですよ。乗ってたのはメルセデスのスマートなんだけど、修理代が10万くらいかかるの。正直、俺も年かなぁ、毎年毎年修理代がかかるのもなぁ、と思ってたから、娘のことばがすんなり入ってきてね。そうだ、事故を起こしたら『ゴメンナサイ』じゃ済まされない。これまでやってきたことやこれからやりたいことも全部台無しになっちゃう。そう思ったから、返納しようって決めたんです」。
都知事や警視総監が出席した返納セレモニー
自宅最寄りの新宿署に免許を返納しに行ったのは、2017年3月のこと。
「その翌日だよ、大掛かりな免許返納セレモニーがあって都知事やら警視総監やら警視庁の音楽隊が集まってるの。驚いたねぇ。なんでこんなスゴイことになってるんだろうってビックリしちゃって。テレビ番組も作られたし、ちょっとした騒動になっちゃった(笑)」。
そのセレモニーで、音楽隊とお得意のウクレレでセッションまでしたブーさん。小池都知事からは「高齢者の免許返納のモデルケースの1つ。ありがとうございます」と感謝までされてしまって恐縮しきりだったそうです。
「愛車はディーラーに返したんだけど、10年以上乗ってたからいくらにもならなかったね。走行距離は5000kmもなかったの。年間500kmも走ってない(笑)。だけど、何度も修理してるし、古いからって。それからはもっぱらタクシー移動です。都内だったらどこでもタクシーはつかまるし、自宅から電話で娘に呼んでもらっても10分くらいで来るから、不便さは感じない」。
ザ・ドリフターズのほかのメンバーはというと――
「(加藤)茶(75歳)も、ことしの3月、誕生日だったかな、返納してるよ。俺の影響っていうより、若いカミさんにいわれたんじゃないの?(笑) 仲本(工事・77歳)はまだ運転してる。だからって俺から返納を勧めることはないよ。本人の意識の問題だもん、人のことはいわない」。
小池都知事からも「モデルケース」と賞賛されたように、家族の勧めで免許返納を決意したブーさん。でも、注目すべきはその前から免許の有効期限を意識していたということ。免許更新は、ひとつの返納タイミングといえるかもしれません。
うちの親もそろそろ免許返納かな?と思ったら。「免許返納」について詳しくはこちら。
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取材・文/岸田直子 撮影/松本順子