介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。実は介護破産の原因には、単に資産の多寡だけでなく、介護に関する「情報量」も大きく関わってくるのです。
本書「介護破産」で、介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法を学んでいきましょう。
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運転で「異変」に気づく
車の運転操作の誤りなどがきっかけで、認知症に気がついた、というケースも最近は増えている。
約3年前、認知症の父(80代後半)が車で徘徊したのをきっかけに、半ば強制的に運転免許を返納させたというのは、神奈川県内に住む女性( 50 代)。
父の異変は80代になってからみられるようになった。母と車で出かけた先で、行き先を忘れたり、ウィンカーの位置がわからず操作に手間取ることがたびたび生じるようになった。車体は電柱や車庫入れの際にぶつかった痕あとで傷だらけ。ほかの人の車にぶつけたこともあった。
女性は運転をどうやってやめさせたらいいのかわからず、日本医科大学内にある「街ぐるみ認知症相談センター」(神奈川県川崎市)に駆け込んだ。同センターは文部科学省の助成を受けて、2007年に開設。2012年からは同大学が事業を継続して、延べ6500人が相談に訪れている(2015年9月時点)。
このセンターでは、相談に対して、臨床心理士など資格を持ったスタッフが生活状況をヒアリングし、もの忘れの状況について問診。タッチパネル式のもの忘れテストを実施する。特別な心配事がなければ、半年後の来所をうながして終了という流れだ。
得点が基準を下回った場合は、さらにテストを実施、「情報提供書」をつくり、かかりつけ医につなげる。
女性からの相談を受けた同センター代表で、日本医科大学の北村伸特任教授によると、この女性の父親は2010年秋に認知症のテストを受けた結果、30点中28点だったので、MCI(軽度認知障害)と判断。のちに生活にも支障が出はじめ、2011年には認知症と診断された。「傷だらけの車で僕の診察に来ていたので、運転をやめるように説得しましたが、応じてもらえませんでした」(北村先生)
このあと、重大な事件が起きた。母が目を離したすきに、夕方から車で出かけてしまい、戻らなかったのだ。警察に捜索願を出し、結婚後、離れて暮らしていた女性も、すぐに実家に駆けつけて夜通し一緒に捜した。
ところが夜の11時過ぎぐらいにふらりと帰ってきた父は、「どこに行っていたの?」と問いかけても「わからない」と答えた。翌日、これ以上話し合っても埒が明かないと思った女性は、父を食事に連れ出し、そのまま免許返納の手続きを行なうため警察署に向かった。「父は抵抗もしないで返納の書類にサインしました。のちに『俺の車はどうした』と聞いても、時間が経つと車を所有して運転していたことも忘れるようで、そのうち車に関して尋ねなくなりました」(女性)その後、女性の一家と暮らしはじめた父は、穏やかな生活を送っているという。
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淑徳大学総合福祉学部教授。1969年生まれ。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所への勤務経験がある。おもな著書に『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から 』(岩波新書)、『孤独死のリアル』(講談社現代新書)、『介護入門 親の老後にいくらかかるか? 』(ちくま新書)など。
村田くみ(むらた・くみ)
ジャーナリスト。1969年生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社。「サンデー毎日」編集部所属。2011年よりフリーに。2016年1月一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS)のアドバイザーに就任。おもな著書に『書き込み式! 親の入院・介護・亡くなった時に備えておく情報ノート』(翔泳社)、『おひとりさま介護』(河出書房新社)など。
(結城 康博、村田 くみ/ KADOKAWA)
長寿は「悪夢」なのか!? 介護によって始まる老後貧困の衝撃!
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