フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、サッカーワールドカップロシア大会での活躍が期待されるサッカー選手、酒井宏樹。しかし彼は「弱気」で「人見知り」という性格の持ち主だった...。
サッカー選手に不向きなその性格をいかにして克服してきたのか? 本書『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』で、その具体的な方法を探っていきましょう。
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自信を深めるメカニズムを体に覚えさせる
2009年に僕は柏レイソルのトップチームへ昇格しましたが、その年の公式戦出場はなく、2010年に公式戦初出場を果たすもレギュラー不在時のバックアッパーということもあり、当時は自分のプレーに対してまったく自信を持てませんでした。コーチングスタッフや先輩たちからは「酒井に足りないのは自信だけ。自信さえつかめば、J1でもやっていける」とアドバイスをいただいていましたが、そう言われても自信は簡単に身につくものではありません。
最初から自信を持っている人はいません。何かにチャレンジするとき、それが初めての経験であれば、特に自信を持つことは難しいでしょう。
ではいったい、どうすれば自信は養われるのでしょうか。
僕の経験では、良い感覚でプレーができて、自分のプレーと周りの評価が一致し、なおかつチームの結果がついてきたときに自信は大きく深まる、そんな気がします。
2011年の柏レイソルでのシーズンは、僕にとってそういう1年でした。
当時、僕は右サイドでレアンドロ・ドミンゲスとコンビを組んでいました。レアンドロは個人技に優れたブラジル人選手で、当時の柏レイソルでは"キング"と呼ばれていました。コンビを組んだ2011年にはリーグ戦15得点を記録して、柏レイソルのJリーグ初優勝の原動力となり、シーズン終了後にはリーグMVPを獲得しました。
レアンドロがボールを持ったとき、僕の走り込む動きに相手がつり出されれば、レアンドロはドリブルで相手陣内に入っていく。逆にそのままレアンドロに相手のマークが付いたままであれば僕がフリーになるから、僕がレアンドロを追い越す瞬間、彼が僕に絶妙のパスを通してくれる。そこで相手が遅れて僕の動きに付いてきたら、今度は僕がダイレクトでレアンドロにパスを折り返すと、完全に相手の陣形が崩れていく。
そうした、こちらの狙いどおりに相手を翻弄する感覚は、自分のビジョンが現実化されていくような感覚もあり、プレーをしていて本当に楽しかったし、サッカーがまたいちだんと好きになりました。
また、僕もアシストという目に見える結果でチームの勝利に貢献できるようになったので、勝ちを積み上げていくたびに自信がどんどん深まっていく、そんなシーズンになりました。
「勝ち負け」も習慣化する
ただ、いくら良いプレーができていても、結果が伴わなければ自信は生まれにくいと思います。
僕はヨーロッパに来て、勝たなければ評価されないということを強く感じています。日本では「勝利がすべてではない。勝利以外にも大切なものがある」という意見も聞きますし、僕も日本にいた頃はそういう考えを持っていました。
誰でも勝つならば内容にこだわって勝ちたい。それは当然です。ただ、泥臭くても勝つことが大事なのか、試合内容を充実させることが大事なのか、プライオリティー(優先順位)がどこにあるのかを見逃してはいけません。
「相手に圧倒的にボールを持たれてシュートを何十本も打たれた」としても、その試合に勝てば「相手の猛攻を全員で守り抜き、少ないチャンスを確実に決めて勝った」と評価は180度変わっていきます。
相手にボールを持たれて押し込まれた試合を無失点に抑えれば、守備陣は「守備力が向上した」「耐える力がついた」と自信になります。攻撃陣はチャンスが少なかったとしても、たった一度のシュートで決勝点を奪って勝利すれば、「決定力が上がった」「シュート精度が向上した」と自信を深めることができます。
加えてこうした経験を積むことで、また同じような難しい場面に遭遇したときに「あのときも粘り強く戦って守り切れたから、今回だってきっと大丈夫だ」と前向きなメンタリティーへつながり、「必ず勝てる」という自信が湧いてきます。
つまり、「つらくても勝利した」という前回の成功体験が根拠となって、いざというときに自信を呼び起こすのです。
たとえば、柏レイソルは、J2に降格が決まった2009年は一度も逆転勝利がありませんでした。相手に先制点を奪われると「また今日も負けてしまうのか......」とマイナスのイメージが湧いてしまい、自信を失って負けが込んでいったのです。
しかし、2年後の2011年シーズンは、メンバーがほとんど変わっていないにもかかわらず、たび重なる逆転勝利によって自信が深まり、リーグ最多7度の逆転勝利を記録しました。相手に先制点を許すという同じシチュエーションでも、2011年は「先に失点しても俺たちは逆転できる」という自信を選手全員が持っていたから、あれだけの逆転勝利を飾ることができたのです。
これを応用すれば、日常生活でも自信を深めることは可能だと思います。初めは小さな目標設定でも構いません。仕事でも勉強でも、とにかく目標を立て、成果を出せれば自信はついていきます。小さな成功体験の積み重ねが習慣化すると、それは自信となってやがて大きな成功へつながると思います。
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撮影/千葉 格
酒井 宏樹(さかい ひろき)
1990年4月12日、長野県生まれ。千葉県柏市で育つ。柏レイソルU-15、U-18を経て2009年にトップチームへ昇格。2010年にJリーグデビュー。2011年にはチームの主力として活躍し、チームのJ1優勝とともに、ベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。同年10月にはA代表に初選出される。日本での活躍が評価され2012年にドイツ・ブンデスリーガのハノーファー96へ完全移籍。主力として活躍した後、2016年6月にフランスの名門オリンピック・マルセイユへ完全移籍。マルセイユ移籍後も確固たる地位を築き、不動の右サイドバックとして活躍。日本代表でも欠かせない存在として、2018年ロシア・ワールドカップでの活躍が期待されている。
『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』
(酒井 宏樹/KADOKAWA)
「日本人は活躍できない」という前評判を覆し、フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、世界の注目を集めるサッカー選手となった酒井宏樹。彼はいかにして「自信のなさ」と「メンタルの弱さ」を克服し、心を強くしていったのか。自然と心が強くなる具体的な方法をこれまでのエピソードをとおして初公開!