「寒林や水を湛ふる赤子の目」親の子風景を読む/井上弘美先生と句から学ぶ俳句

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井上弘美先生に学ぶ、旬の俳句。12月は「親の子風景を読む」というテーマでご紹介します。

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母と子のトランプ狐啼く夜なり 橋本多佳子

冬の夜は暖かい室内で、家族団欒(だんらん)の一時を楽しみたいもの。「トランプ」遊びに興じる母と子のむつまじい様子を描きつつ背景に深い闇の中で啼く「狐」を取り合わせ、童話のような不思議な味わいを出しています。
詠まれたのは一九四六(昭和二十一)年。疎開先の奈良でのこと。多佳子はこの時期すでに夫を病気で亡くし、戦中戦後の心細い時期を、娘との「トランプ」遊びで紛らしていたのでしょう。「狐」の啼き声が寂しい。
作者は一八九九(明治三十二)年、東京に生まれ、女性俳人の先駈けとして活躍しました。一九六三(昭和三十八)年没。

 

寒林や水を湛ふる赤子の目 西山ゆりこ

十二月の雑木林は、紅や黄色に色付いた葉をわずかに残しつつ、落葉を深々と重ねています。「寒林」は裸になった木々のことで、その上に広がる透明な冬の青空とともに、どこまでも清潔で明るく、広やかです。

この句は、そんな「寒林」と、まるで水を潤ませているかのような「赤子の目」を取り合わせた句です。冬の木々も、赤子の目も、瑞々しく澄み切っています。そこに、一子を得て母になった悦びが感じられます。
作者は一九七七(昭和五十二)年、神奈川県生まれの新鋭作家。第一句集『ゴールデンウィーク』よりの一句です。

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<教えてくれた人>
井上弘美(いのうえ・ひろみ)先生

1953年、京都市生まれ。「汀」主宰。「泉」同人。俳人協会評議員。「朝日新聞」京都版俳壇選者。

 
この記事は『毎日が発見』2017年12月号に掲載の情報です。

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