「冬泉夕映えうつすことながし」色彩をいかす/井上弘美先生と句から学ぶ俳句

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井上弘美先生に学ぶ、旬の俳句。11月は「色彩を生かす」というテーマでご紹介します。

前の記事:「「落鮎や日に日に水のおそろしき」深まりゆく秋を詠む/井上弘美先生と句から学ぶ俳句」

 

冬泉夕映えうつすことながし  柴田白葉女

十一月七日は立冬。空も水も澄み渡っていた秋から、「冴ゆ」「凍つ」という季語がぴったりの季節になっていきます。この句は、清涼感のある夏の泉ではなく、冬の透徹した泉が夕日を映し出している様子を描写しています。明治生まれの作者はこの時六十歳。見たままを詠んだ句のようですが、深い静けさを宿した「冬泉」が、いつまでも茜色の雲を映し出している様子に、作者自身の沈静した心の風景が思われます。

作者は一九〇六(明治三十九)年、神戸市生まれ。俳壇の最高峰、蛇笏賞を受賞。八四(昭和五十九)年に逝去。享年七十七。

 

何を編むカナリア色の毛糸玉  日原 傳

十一月を迎えて、急に風が冷たくなると、マフラーやカーディガンなど、毛糸の温もりが恋しくなります。俳句では、「毛糸」はもちろん「毛糸編む」や「毛糸玉」も冬の季語です。
この句は毛糸を編んでいる人を見て詠んだ句です。毛糸玉を「カナリア色」と表現したことで、優しい黄色と、毛糸の柔らかい手触りまでが伝わります。それは、編む人の幸福感をも感じさせ、何が編み上がるのか実に楽しい句です。

作者は一九五九(昭和三十四)年、山梨県生まれ。中国文学の研究者にして俳人。近著、句集『燕京』よりの一句です。

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<教えてくれた人>
井上弘美(いのうえ・ひろみ)先生

1953年、京都市生まれ。「汀」主宰。「泉」同人。俳人協会評議員。「朝日新聞」京都版俳壇選者。

 
この記事は『毎日が発見』2017年11月号に掲載の情報です。

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