10月に上演される舞台『ホーム、アイムダーリン~愛しのマイホーム~』でジュディ役の鈴木京香さんと仲良し夫妻を演じるジョニー役の高橋克実さん。理想の夫婦の完璧な日常に見えた二人の暮らしに、徐々に問題が見え隠れする本作。夫婦の微妙な関係、一緒に考えていただきました。
「年齢的に、体のことも考えるようになりました。僕は結構食べるんですよ。親父も『おかわり』を言う男はかっこいい!っていう世代の人だから(笑)。だけど、最近は腹七分目にしています。ちょっと抑えるだけで、翌朝の体調も毎日のリズムも好調ですね」
義理の母とは、ナンギな存在!?
――ジュディは古き良き1950年代の専業主婦に理想を求め、完璧な主婦になろうとします。
そこにはジュディが幼い頃から影響を受けてきたお母さんへの反発があるかもしれません。
この作品は夫婦の話はもちろん、そういう母娘の関係も面白いです。
劇中で、ジュディのお母さんが父親っ子のジュディに、亡くなったお父さんの絶対に聞きたくなかった秘密を暴露するシーンがあるのですが、そこが強烈でつくづくよくできた戯曲だなあと思いました。
他にも父と息子ではありえないようなやりとりがあって、僕にも妹がいますが、その昔、母と妹の言い合いを聞いて、「そんなことで、そこまで言わなくても...」と戸惑ったことを思い出しました(笑)。
冒頭で、僕が演じるジョニーが「あ、お義母さん、帰ったんだ」とちょっとホッとする台詞があるんです。
その一言が、義母と娘に挟まれる彼の思いを言い得ていて、彼にとっては、義理のお母さんは怖い存在なんだろうな、と思いました。
ただ、僕自身は、カミさんがいなくても平気でカミさんの実家に長居ができるんですよね、1週間くらい。
義理の両親とも気が合うし。
そこは、この戯曲とは違うところですね(笑)。
"よかれと思って"が難しい、夫婦のズレ
――家も服も50年代風に徹底するジュディに、ジョニーは懸命に合わせようとします。
そういうジョニーの気持ちは理解できます。
大切な人と一緒に暮らしていくために、相手に合わせるというのは。
ただ、彼は自分が無理していたことに徐々に気付き始めるんです。
でも、だからといって、全部が全部、無理していたわけではないと思うんですよ。
50年代のクラシックカーも、好きで乗っていたと思いますし。
――その辺を話し合うことの難しさも、描かれています。
そうですね。
もともとは仕事一筋のキャリアウーマンだったジュディは、課題を与えられると徹底的にやる人なんだと思います。
だから、逆の状況になったら、今度は徹底的に理想の奥さんになろうとする。
そもそも料理をしたこともなかったのに、すごい料理上手になるというのも、よかれと思って一生懸命突き進んだ結果です。
でも、後半に、ジョニーが「実は朝、君に紅茶を持っていくのが好きだった」と告白する場面があって、ジュディはそこで初めて自分が夫の楽しみを奪っていたことに気付く。
何だってしてもらえたら楽ですが、してあげる喜びというのも、たしかに大切なんです。
だから、本当に相手が求めていることは何なのかってことなんでしょうね。
この戯曲は、ちょっとした会話の中から、夫婦がそういうズレに気付いて、少しずつ修正していく過程がすてきだと思います。
でも、イギリス人夫妻の甘いやりとりを、鈴木京香さんが奥さんなのに、そのダンナさんが純和風の僕で大丈夫かなといまだに思ってるんです(笑)。
作品の世界観からは「奥さまは魔女」を思い出しますね。
ジョニーの台詞を言おうとすると、どうしても、あのドラマの「ダーリン」ぽくなって(笑)。
カラッとしてチャーミングな、あんな夫婦を演じられたら、皆さんに楽しくご覧いただけるのかな...と、いま(取材時はお稽古前)は思っています。
取材・文/多賀谷浩子 撮影/齋藤ジン