主人公は80歳のおばあちゃん。家出をしてネットカフェに寝泊まりし、猫を飼い始め、恋をし、新しい友人を作り...おばあちゃんの青春マンガ『傘寿まり子』がいま、話題です。作者のおざわゆきさんにお話を伺いました。
コミックス「傘寿まり子」を「毎日が発見ネット」にて連載中。バックナンバーはこちら。
人の根本や好きなことは、30年後も変わらないと思うんです
――80歳の女性が主人公というのはインパクトがあります。おざわさんは80という年代にどのようなイメージを持っていますか?
おざわ 母が80代になりましたが、やりたいことがまだまだあるみたいで。デパートに行ったりお友達に会いに行ったり、今も飛び回っています。少し前までは海外に旅行したり、社交ダンスは35年くらい続けていました。80代って昔だとすごく長生きしたという印象でしたけれど、もっと元気でやりたいことがたくさんあって、昔の"老けている"というイメージではないですね。
――作品はそんなお母さまの影響を受けていますか?
おざわ 受けていると思います。特に着るものに関しては、母はおしゃれしたいという人で、美容院もよくいきますし、お化粧もします。まだまだファッションにこだわりがあるんです。30年くらい前に「私はぼけた色でなく、原色が似合うの」と言って。それ以来、パステルカラーを着ているのを見たことないです(笑)。そういう意味では、本人がもともと好きなことって、歳をとってもなかなか変わらないんだなと思います。
――お母さまも『傘寿まり子』を読まれていますか?
おざわ 母はこれまでの作品もずっと読んでいてくれていますが、この作品は特に面白いと言ってくれます。「まり子さんのように私もやれるかしら」「私もパソコンでゲームできるのかしらね」とか。母にはあんまり「これをやっちゃだめ」というのがなくて、女性らしい柔軟性を持ち続けている人だと思います。新しいものを嫌がらず、興味を持って面白がるので、それが若々しさにもつながっていると思います。
――主人公の幸田まり子さんは、80歳で現役の作家。四世代同居の家を飛び出し、ネットカフェで寝泊まりしながら家族とのすれ違い、仕事や恋愛、友人の悩みなどさまざまな問題に向き合っていきます。とてもかわいらしく、前向きで魅力的な人ですが、モデルにされた人はいますか?
おざわ ベースは私自身です。人の根本は変わらないと思うので、自分が30年後になっても今と気持ちはそんなに変わらないだろうと思っています。おばあちゃんの気持ちを考えるのではなく、自分がちょっと年をとったらこんな感じかなとイメージして描いています。
人ってたぶん、ある歳からずっと続けていたものをやめたりしないと思うんです。今、人生や生活の柱になっているものは、環境によって続けられないこと以外は、ずっと続けてしまような気がするんです。まり子さんも、この歳まで仕事が途切れなかったので、漠然とずっと続けていられると思っていると思います。今までやれてしまっていたので、まだやれるという気持ちがあって、そこから外れるという気持ちにはなかなかなれないんじゃないでしょうか。
作品を書くことへの情熱は80歳になった今も変わらない
――おざわさんも、まり子さんのような状況になってもマンガを描き続けたいと思いますか?
おざわ そうですね。この作品を描くまでは、60歳や65歳は想像できるけれど、80歳ってまったく想像がつかなかったんです。でもこの作品を描いているあいだに、このまま描いていいよって言われて体力があったら、自分もずっと描き続けているかもしれないと思いました。自分の世代と80代は、実はあまりかけ離れてはいないんじゃないかなと今は感じています。
インタビュー・文/岸上佳緒里
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おざわゆき
愛知県生まれ。代表作に、父親のシベリア抑留体験をもとにした『新装版 凍りの掌 シベリア抑留記』(講談社)、母親の空襲体験をもとにした『あとかたの街』(講談社)など。現在、「BE・LOVE」(講談社)にて『傘寿まり子』を連載中。
(おざわゆき/講談社)
ベテラン作家の幸田まり子は自分の家で息子夫婦、孫夫婦との間で住居問題が勃発。老人の自分には居場所がないことを感じ一人家出を決意。街中のネットカフェで暮らし始めるが...? 四世代住む我が家で居場所を失ったまり子が、80歳で家出をするというロードムービー的コミック!