「歳を取るのは嫌なことばかりじゃない」~「傘寿まり子」作者おざわゆきさんインタビュー(2)

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主人公は80歳のおばあちゃん。家出をしてネットカフェに寝泊まりし、猫を飼い始め、恋をし、新しい友人を作り...おばあちゃんの青春マンガ『傘寿まり子』がいま、話題です。作者のおざわゆきさんにお話を伺いました。

現在コミックス「傘寿まり子」を「毎日が発見ネット」にて連載中。バックナンバーはこちら。

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歳を取るのは嫌なことばかりじゃない。生きるって、そういうことのバランスだと思います


――高齢者の置かれている現実にはさまざまな問題がありますが、作品にはどのように取り入れていますか。

おざわ 社会問題を直球で取り入れるとマンガとしての面白みに欠けてしまうので、少し違う感じで取り入れて目先を変え、それをまり子さんがいかに昇華させるかというところに気を付けています。

例えば、3巻で独身女性が遠くに住んでいる親を呼び寄せるというストーリーがあります。「"どうして私を1人にしたんだって毎日お母さんの背中に責められているみたいだった」というセリフは、直球な表現です。でも、そのお母さんであるちえぞうさんは、パソコンでゲームをやっていて、まり子さんともゲームの中で出会うという設定。かわいそうだけれど救いがあり、まり子さんの対処も普通とは違うところに面白みがあります。

ダークな部分だけにスポットライトを当てるのではなく、そういうこともあるかもしれないけれど、そうじゃない面もある。生きているってそういうバランスかなって。「歳を取るって、嫌なことばっかりだよ」と言う人もいるけれど、毎日いろいろなことが起こるなかで嫌なこともあるけれど、すごくいいこともある。50代よりもっといいことがあるかもしれないから。この作品を読んで、"もう少し軽やかに生きよう"という気持ちになってもらえるとうれしいです。

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まり子の新しい友人、ちえぞうは東京に住む娘と同居を始めるが...

――まり子さんが家出をした後にネットカフェに寝泊まりするというのには驚きました。

おざわ 調べていたら、ネットカフェにシニア向けの料金パックがあることがわかって、こういう店も今はシニアにどんどん来て下さいという体制なんだなと知りました。
生前に撮影する遺影も、フワッフワのドレスを着てお化粧をして、大変身して撮影するのが最近はやりつつあるそうです。歳を取ったら若い時と違うオシャレもできますし、そのうちまり子さんもビューティ系でオシャレに描けるといいなと思っています。

「歳を取るのは嫌なことばかりじゃない」~「傘寿まり子」作者おざわゆきさんインタビュー(2) 5.jpg家出したまり子は初めてネットカフェを訪れる

――まり子さんが同棲していることを、孫の嫁の彩花さんが「お義父さんには言わない方がいいです。母親が誰かに甘い感情を持っているってかなり衝撃」と言ったり。家出したまり子さんを家に戻るように息子が説得するシーンなど、"子"という立場から家族に共感する部分がたくさんありました。

おざわ 彩花さんの言葉は正直ですよね。親が恋愛って、基本的には受け入れたくないというのが子供の気持ちだと思います。
まり子さんと息子とのシーンも、わりと自然に描いています。「母が家出しちゃいました」としたら、自分の家族なのになんで離れたいと思うのだろうって、寂しいと思うんです。自分の親には、やっぱり同じ場所にずっといてほしいし、安心したいわけですよね。特にある程度年齢がいって、これから親の面倒を見ようと思っている時は、特に寂しく感じると思います。

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まり子の息子は、まり子の家出を受け入れられない

「歳を取るのは嫌なことばかりじゃない」~「傘寿まり子」作者おざわゆきさんインタビュー(2) 2.jpg孫の嫁の彩花は、実はまり子の恋愛がうらやましい!?

――読者のみなさんからはどのような反響がありますか。

おざわ (まり子の新しい友人の)ちえぞうさんの話に関しては、離れて暮らしていたちえぞうさんを呼び寄せた娘に共感したというお話をたくさんいただきました。
あとはやっぱり、まり子さんのように年を取りたい、まり子さんのような老後を送りたい、という感想が多いですね。でもだいたい最後に「頑張らないといけないよね」と書いてあるんです。まり子さんは80歳だけど走ったりもしますし。健康、元気というのは、マンガの主人公としては基本ですからね。"非常に優れた中学生"というのと同じです(笑)。

インタビュー・文/岸上佳緒里

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おざわゆき
愛知県生まれ。代表作に、父親のシベリア抑留体験をもとにした『新装版 凍りの掌 シベリア抑留記』(講談社)、母親の空襲体験をもとにした『あとかたの街』(講談社)など。現在、「BE・LOVE」(講談社)にて『傘寿まり子』を連載中。

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「傘寿まり子」(1)
(おざわゆき/講談社)

ベテラン作家の幸田まり子は自分の家で息子夫婦、孫夫婦との間で住居問題が勃発。老人の自分には居場所がないことを感じ一人家出を決意。街中のネットカフェで暮らし始めるが...? 四世代住む我が家で居場所を失ったまり子が、80歳で家出をするというロードムービー的コミック!
 

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