水道橋博士が語る54歳の芸人像と死生観(3)生き急いでいる方が人生は充実している

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ビートたけしに弟子入りし、漫才コンビ「浅草キッド」を結成した水道橋博士。過激な笑いを生み出し続けた博士も、もう54歳。今、健康についてどう考えているのか伺いました。

前編「水道橋博士が語る54歳の芸人像と死生観(2)観念ではなく体現するのが芸人 」はこちら。

常に見た目も気持ちも若々しい水道橋博士。そんな博士は高齢化する社会の中でどのような考え方を持ってすごしているのでしょうか。

誰が見ても「水道橋博士だ」と思われたい

―― 博士さんは金髪にしたりいつも若々しい格好をしていますが。

博士 そうだね。最近、あえてやってる。劇場とかライブとか見に行った時、客席に知り合いとか、面識はないけど知っている人がいる場合があるんだよ。そういう時に気配を消して「あれ博士かしら?」とか思われるより、誰が見ても確信的に水道橋博士だと思われたほうが良いと思って、派手な格好にしているの。そこで挨拶を交わしたり、ちゃんと出会いを意識出来る方が良いと思うから。もちろん、皆、そうすべきだと思っているではなく、ボクの方がそういうふうな格好を心掛けている。

―― 芸能人は若いですよね。

博士 芸能人ってなぜ若いかって言うと「カメラが顔を磨く」っていうけど、本当にそう思うね。同窓会とかに行くと愕然とするもん。本当に同世代はオヤジだらけ。俺は10代の頃と今も気持ち的にそんなに変わってないんだけど。



蛭子さんに憧れる人も、ビートたけしに憧れる人もいる

―― 高齢者の方にはどのようなイメージを持たれていますか。

博士 この間、ファミレスに行ったときに隣で、50~60代の人たちが女子会をやってたの。俺がどんなにその輪に入りたかったか! で、なんとなく会話が聞こえてくるんだけど、英語で喋ってるんだよ。「アイ リード ニュースペーパー」「カケガクエン」とか時事ネタを喋ってる。それが、なかなか左寄りなんだよ。「プライムミニスター・アベ イズ ナウ デンジャラス」とか言ってて。それも面白くて(笑)なんで英語なのか気になるじゃない? 俺はその後すぐ予定があって中座しなきゃいけなかったから一緒にいた後輩芸人のコラアゲンはいごうまんに、その理由を聞くように頼んだの。

―― どんな理由だったんですか?

博士 英語教室に通い始めたからその練習だって(笑)そういう同世代の異性の会話とかを全部聞きたいんだよね。

―― へえ! 面白い(笑)。今、悩みとかはありますか?

博士 うーん。釣りとかができないんですよ。何も考えないでボーっとするっていうのができない。これって結構な悩みかも。あと原稿の手離れが悪い。ずーっと書いている本をああでもない、こうでもないと推敲して書いてるの。でも、それって読者が果たして求めていることなのか考えるの。今、何も考えていないような蛭子(能収)さんの本が爆発的に売れるでしょ。蛭子さんの悩み相談とか、生き方の哲学みたいな本。みんな、本を書く人って一生懸命書いているじゃん。なのに蛭子さんが数時間、話してまとめたみたいな本の方が売れる。俺、蛭子さんとの関係も長いけど、憧れるって1㎜もないもん(笑)。ああいう生き方を学びましょうって言われても、学びたくない! 蛭子さんに憧れる人もいれば、ビートたけしに憧れる人もいるから人間って不思議だよね。

予防線っていうのはすべてに意味がある

―― 死生観とかを考えているほうが生きやすいですか?

博士 どうだろうね? 生き急いでいる方が人生は充実しているし、そこに病っていうものがプログラムされるんであれば、そのプログラムを外していくことは後からでもできる。そのために勉強すればいいし。老いを嫌って「アンチエイジング」を信望しているみたいに言われるけど、言葉はスローガンであってね。じゃあ、アンチ・アンチエイジングだとかね。それはただの言葉遊びだよ。昔から貝原益軒の『養生訓』や、老齢のマイナス思考を賞賛した赤瀬川原平の『老人力』とか、渡辺淳一の『鈍感力』とか、老いを肯定する本なんて山のようにあるんだよ。でも、ある程度の、人生に於けるストイックさと自問自答をしてない人っているじゃない? それで何か不遇の事態が起こると「なんでこんなことになってしまったんだろう?」って。俺は起こり得ないもん。原因はあるだろうと。

例えば、今、病気になったら「寝不足!」とか(笑)わかってる。心筋梗塞だとか脳出血とか、父親はそうなったけど、でも突然、脳出血になるかもしれないっていう可能性を考えているわけじゃん。それで、出来る限り、その予防もすごいやる。47歳の頃にウィルス性髄膜炎で入院した時に、「あれだけ健康、健康って言ってた博士もそうなったじゃないか」って言われたけど、でも伊集院光が「博士、あれを書かなきゃ、もっと早く、ヒドいことになってたと思いますよ」って。俺もそう思うね。予防線っていうのは全てに意味があると思ってる。


後編「水道橋博士が語る54歳の芸人像と死生観(4)」はこちら。

取材・文/戸部田 誠 撮影/奥西淳二

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水道橋博士(すいどうばしはかせ)

1962年生まれ、岡山県出身。ビートたけしに憧れ上京、86年に弟子入りし、浅草フランス座での住み込み生活を経て、87年に玉袋筋太郎と「浅草キッド」を結成。テレビ、ラジオ、漫才の他、文筆家としても活躍。『週刊文春』に連載コラム執筆中。

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『はかせのはなし』

KADOKAWA (1,200円 + 税)

『広報東京都』で2009~2014年に連載されたエッセイ「はかせのはなし」を全面改稿。さらに、書き下ろしの家族とのエピソードなどを加えた一冊です。

 
この記事は『毎日が発見』2017年8月号に掲載の情報です。

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