「人間が人間を育てるなんておこがましい」ー母親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(10)

「人間が人間を育てるなんておこがましい」ー母親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(10) 10.jpg10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断された岩野響さん。中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学しない道を選んだ15歳の「生きる道探し」とは?
著書『15歳のコーヒー屋さん』を通じて、今話題のコーヒー焙煎士・岩野響さんの言葉に耳を傾けてみましょう。

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前の記事「よい先生との出会いで気づいたことー母親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(9)」はこちら。

 

「育てる」より「サポート」でいい

同じ頃に相談していた脳神経外科の先生からも、印象的な言葉をいただきました。
先生の言葉は、「自分の子どもなのだから、私がしっかり育てなくちゃ!」と思っていた私にとって目からうろこでした。

先生はこうおっしゃいました。
「人間が人間を育てるなんて、おこがましい。生命を教育しようなんて思うことが間違っていて、サポートでいいのよ。響さんは、響さんで完成されていてすばらしいわけだから、それを、あなた流に教育しよう、育てようとしちゃうから、お母さんもこんがらがって悩んでしまう。響さんは響さんでいいんだから!お母さんは、響さんができないことをサポートすればいいの」

相手が他人であれば、できないことはお互い助け合っていけばいいと思えます。けれど、わが子となると、助けるよりも、できるようにさせなければ!育てなければ!という使命感を持ってしまいがちです。私はそんな使命感に押しつぶされそうになっていました。

先生の言葉によって、
響はまだ車の運転ができないから、私が行きたい場所に乗せていってあげる。
響がまだ小さくて働けないから、私が働く。
ご飯を作れないから、私が作る。
そんな共同生活スタイルのような、もっと気楽な関係でいいのかもしれない、と思えるようになりました。

きっと、私がとても悩んでいた頃だったので、先生は私に肩の力を抜けと言いたかったのだと思います。先生はこうもおっしゃっていました。

「人間はいわば神の創造物。私たち医者だって、もう何千年も研究しているのに、わからないことはたくさんあるの。お母さんは子どもをわかって教育しようとするから変なことになる。あなたが教わってきた教育と、響さんに必要な教育は、また違うでしょう?」

先生に教えてもらった「サポートに徹していい」という考え方は、その後、私たち夫婦の子どもたちに対する基本姿勢になっています。

響は響のままでよくて、私たちは響のことをサポートしてあげたい。自分たちがサポートできるやり方を見つけよう、と夫婦でよく話し合いました。
主人は「できるかぎり、響のそばにいてあげたい」と言いだし、その結果、ふたりで一緒に、自宅で洋品店を始めることになりました。
 

お互いがよくなるために「家族会議」を開く

私たち夫婦は響に対する考え方が違っていたこともあり、響が小さい頃はたくさんもめたし、苦しいことも多かったです。

当時、主人がよく言っていたのは、「障害があるからしょうがないといっても、このままでは生きていけないじゃない」ということです。「他の子が好きなことに、なんの興味も示さないけど、ちょっとおかしくない?」「宿題はやっぱりやっていかないとまずいだろう。みんなやっているんだから」

私は自分にもいろいろ苦手なところがあり、響の気持ちがわからなくもなかったので、そう言われると自分が責められている気分になってしまい、解決できないことを永遠に話し合ったり、言い合ったりもしてきました。それでも、私たち夫婦はいまでもよく話し合います。響はもちろん、下の弟ふたりも加わって、よく「家族会議」をします。

会議といっても、あらたまってひざを突き合わせるわけではなく、食事中や学校の行き帰り、休日遊びに行く車の中など、どこでも会議の場になります。

話し合いで導き出す結論は、これからをよくするための方法。そのための〝家族会議〟です。

家族といっても、考えていることは人それぞれです。たがいが自分の心の中に問題を抱え込んでしまっては、せっかく家族になった意味がありません。

どんなに違う意見でも腹の中を見せ合って、じゃあ、どうしたらいいのかな?と同じテーブルについて考えよう。言い合いになっちゃうこともあるかもしれないけど、岩野家の「家族会議」はいつだっていい方向に向かっているんだと思うようにしようね、ということだけは大切にしています。


撮影/木村直軌

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岩野 響(いわの・ひびき)

2002年生まれ。群馬県桐生市在住。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断される。中学生で学校に行けなくなったのをきっかけに、あえて高校に進学しない道を選び、料理やコーヒー焙煎、写真など、さまざまな「できること」を追求していく。2017年4月、自宅敷地内に「HORIZON LABO」をオープン。幼い頃から調味料を替えたのがわかるほどの鋭い味覚、嗅覚を生かし、自ら焙煎したコーヒー豆の販売を行ったところ、そのコーヒーの味わいや生き方が全国で話題となる(現在、直販は休止)。

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『15歳のコーヒー屋さん』

(岩野 響/KADOKAWA)

現在、15歳のコーヒー焙煎士として、メディアで注目されている岩野響さん。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断され、中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学せずコーヒー焙煎士の道を選びました。ご両親のインタビューとともに、精神科医・星野仁彦先生の解説も掲載。

『15歳のコーヒー屋さん』

 

・「HORIZON LABO」公式ホームページはこちら「HORIZON LABO」コーヒー豆の通販はこちらで行っています。

 
この記事は書籍『15歳のコーヒー屋さん』からの抜粋です

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