ぼくのお店「HORIZON LABO」をオープンした日/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(14)

ぼくのお店「HORIZON LABO」をオープンした日/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(14) 14.jpg10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断された岩野響さん。中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学しない道を選んだ15歳の「生きる道探し」とは?
著書『15歳のコーヒー屋さん』を通じて、今話題のコーヒー焙煎士・岩野響さんの言葉に耳を傾けてみましょう。

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前の記事「なぜ特別支援学級に行かなければならないのかー父親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(13)」はこちら。

 

2017年4月、「HORIZON LABO」をオープン!

ぼくが店長を務めるコーヒー屋「HORIZON LABO」は、群馬県桐生市の市街地を見下ろす位置にあります。すぐ近くには森があり、自然が豊かで静かなところです。

自宅兼両親が経営する店舗の敷地内に倉庫があり、そこを父とふたりで改装して、コーヒー屋を始めました。
コーヒー屋といっても、コーヒーを飲めるカフェではなく、ぼくが焙煎したコーヒー豆を買ってもらうお店です(現在、店頭販売は休止)。

オープン当初は営業するのは月の1週間だけ。月初の1週間は店頭で豆を販売し、残りの3週間は販売の準備をしたり、いろいろな勉強をしたり、経験を積んだりする時間にあてようという計画でした。

最初は、両親のお店に買い物に来るお客さんが、帰りに立ち寄ってコーヒー豆を買ってくださればいいな、というくらいの気持ちだったのですが、ありがたいことに、オープンして間もないうちに地元の新聞で紹介していただき、1週間で売るつもりのコーヒー豆が初日だけで売り切れてしまいました。

さらに、いくつかのテレビ番組で紹介してもらえたことをきっかけに、全国からお客さんが来てくださるようになり、即日完売による品切れ状態が続きました。
そんな事態は予測していなかったので、駐車場も不足し、ご近所への迷惑も考えて、わずか4か月で店頭販売は中止せざるを得なくなりました。

お店では接客も体験しましたが、臨機応変に対応しなければいけない接客の仕事は、ぼくにはとても難しかったです。お客さんが押し寄せて、焙煎が追いつかなくなると、不安になってパニックを起こしそうになることもありました。

ぼくのことを応援してくださっているお客さんたちなのに、いっぱいいっぱいで失礼な態度をとってしまい反省することもありました。

それもこれも、実際にやってみないとわからないことで、接客の仕事が難しいとわかったいまは、大好きな焙煎の仕事に集中できるような方法で販売するようになり(現在は数量限定の通信販売をスタートしました)、落ち着いた日々を過ごしています。

 

コーヒー屋さんの1日

では、現在のぼくの生活についてお話ししたいと思います。

ぼくの1日はだいたいこんな感じです。
朝は7時半頃に起きて、すぐに焙煎機に火をつけにお店に行きます。焙煎機はスイッチを入れればすぐに動きだすわけではなくて、焙煎機をあたためる余熱が必要だからです。

それから朝ご飯を食べたり、食器を片づけたりして、朝9時頃から焙煎を始めます。
作業はほとんどひとりで行います。コーヒーの生豆を取り出し、重さを量って、焙煎機に入れて焙煎して......。途中で火加減を調整したりしながら経過を見守り、できあがったら焙煎機から取り出すという作業です。

1回の焙煎にかかる時間はだいたい1時間。その作業を夜の7時か8時頃まで繰り返します。
1時間に1回は作業の区切りがあるので、そこで水を飲んだり、トイレに行ったりしますが、それ以外はほとんどお店にこもりきり。お昼をとることも忘れがちで、父や母に声をかけられてはじめて、食事時間だと気づいたりします。

やりはじめるとおもしろくて、ぼく自身はずっとやっていたいくらいですが、「もう、今日は終わりにしたら」と声をかけられるので、「じゃ、やめよう」という感じです。

他にも、生豆を運ぶ力仕事や、焙煎した豆を計量してパッキングするという正確性が問われる作業もあります。

ぼくはすごく体力があるタイプではなく、どちらかというと力仕事は苦手です。不器用で集中力もないから、焙煎以外の作業は正直大変だなと思うことが多いです。だけど、焙煎に関しては疲れることがあまりなくて、いつまでもできてしまいます。

本来、焙煎の仕事はそんなに長時間できる仕事ではないそうです。細かい火加減の調整など、焙煎の作業は集中力が必要だからです。
そのため、焙煎家の知り合いからも、1日にできて3~4時間が限度だと聞いていました。でも、ぼくは9時間、10 時間やっても平気なのです。

なぜか、コーヒー豆の焙煎に関しては、わき上がってくるような集中力がある感じです。
ぼくは、幼いときから、好きなことには時間を忘れて夢中になる傾向があって、その特性がうまく焙煎の仕事に合っているようです。

 


撮影/木村直軌

次の記事「月替わりで味のテーマを決めているぼくのコーヒー/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(15)」はこちら。

 

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岩野 響(いわの・ひびき)

2002年生まれ。群馬県桐生市在住。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断される。中学生で学校に行けなくなったのをきっかけに、あえて高校に進学しない道を選び、料理やコーヒー焙煎、写真など、さまざまな「できること」を追求していく。2017年4月、自宅敷地内に「HORIZON LABO」をオープン。幼い頃から調味料を替えたのがわかるほどの鋭い味覚、嗅覚を生かし、自ら焙煎したコーヒー豆の販売を行ったところ、そのコーヒーの味わいや生き方が全国で話題となる(現在、直販は休止)。

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『15歳のコーヒー屋さん』

(岩野 響/KADOKAWA)

現在、15歳のコーヒー焙煎士として、メディアで注目されている岩野響さん。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断され、中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学せずコーヒー焙煎士の道を選びました。ご両親のインタビューとともに、精神科医・星野仁彦先生の解説も掲載。

『15歳のコーヒー屋さん』

 

「HORIZON LABO」公式ホームページはこちら「HORIZON LABO」コーヒー豆の通販はこちらで行っています。

 
この記事は書籍『15歳のコーヒー屋さん』からの抜粋です

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