10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断された岩野響さん。中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学しない道を選んだ15歳の「生きる道探し」とは?
著書『15歳のコーヒー屋さん』を通じて、今話題のコーヒー焙煎士・岩野響さんの言葉に耳を傾けてみましょう。
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何度やっても飽きることがない、コーヒー焙煎の魅力
1時間の作業のうち、コーヒー豆を焙煎機にかけているのは、およそ30分か35分くらいです。焙煎の時間は長いほうで、ぼくなりのこだわりもあって、通常の倍ぐらいかけています。最初の15分は、余熱で豆をあたためます。勝負は、残り15分をきったあたりの後半、ここからすごく味が変化します。
特に最後の28分、29分あたりは、ほんの10秒、20秒で味が変わってしまうので、そばにいて細かく火加減を調整していくのですが、その作業がとても楽しくて飽きません。
コーヒーの味は、飲んでみないとわからないところがあります。焙煎したあとに、その豆でコーヒーを淹れてみて、「あ、違った」と思うこともあり、そういう予想どおりにいかないところもすごく楽しいです。
「ちょっと火が強かった」とか、「3秒長すぎた」とか、ほんの少しの微妙な調整で、そのつど味が変わってしまうのもコーヒーのおもしろさであり、奥深さを感じます。豆が持っている水分量でも味が変わってしまいます。
やればやるほど新しいことが見つかるので、そこが、やりがいがあって楽しいですね。
ぼくは、コーヒーのシンプルさに惹(ひ)かれました。原料は豆だけなのに、やり方しだいで、いくらでも味が変化するのがおもしろいんです。火加減をどうするのか、シンプルな素材だからこそ、焙煎の仕方で変化する要素がたくさんあります。
豆の挽き方からお湯の温度や注ぎ方まで、淹れるときにいくらでも工夫ができるのも、はまってしまう理由でした。
コーヒーの器具もかっこよくて好きですね。焙煎機はもちろんかっこいいのですが、豆を入れる瓶や、コーヒーを飲むカップ、お鍋ややかんなどの調理器具も、好みのものを揃えていく過程が楽しいです。
味のイメージを膨らませるために
ぼくのコーヒーは、月替わりで味のテーマを決めています。たとえば、10月なら「香ばしさと甘みのうねり」、11月なら「彫刻をイメージした静かな甘み」。
テーマは生活の中で目にするさまざまな風景やぼくの興味、出会いの中で決まっていきます。毎日のように家の近くの森に出かけてイメージを膨らませたり、美術館で見た作品からイメージを得ることもあれば、陶芸家の作品を見たりして刺激を受けることもあります。
富岡製糸場にあるまゆの乾燥場に入れてもらったときは、おもしろくて通いつめてしまい、3日間ずっとその中で過ごしました。「影」のことが頭から離れなくて、懐中電灯を持って森に出かけ、影を作っては遊んでいたこともあります。そのようすを見ていた母からは、「ニヤニヤして怪しいよ。怖いからやめて~」なんて、止められたこともあります。
コーヒーにつながるイメージは、探しに出かけることもあるし、暮らしの中のふとした瞬間に見たもの、感じたものの中にヒントがあることもあります。イメージがわいたときは、帰ってくるのが夜になっても、そこから1回焙煎してみて、味を調整します。
いまのぼくは、自然や造形物などに触れている時間と、コーヒー豆を焙煎している時間しかなくて、そのバランスがとても心地よいです。
最近のコーヒーは、深煎りや浅煎りといった焙煎方法や、豆の産地によってタイプ分けされることが一般的ですが、ぼくは自然や芸術など、そういう環境に身を委ねることで、そこにある風景や匂いや、空気感みたいなものを、コーヒーの味に表現していきたいと思っています。
撮影/木村直軌
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岩野 響(いわの・ひびき)
2002年生まれ。群馬県桐生市在住。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断される。中学生で学校に行けなくなったのをきっかけに、あえて高校に進学しない道を選び、料理やコーヒー焙煎、写真など、さまざまな「できること」を追求していく。2017年4月、自宅敷地内に「HORIZON LABO」をオープン。幼い頃から調味料を替えたのがわかるほどの鋭い味覚、嗅覚を生かし、自ら焙煎したコーヒー豆の販売を行ったところ、そのコーヒーの味わいや生き方が全国で話題となる(現在、直販は休止)。
『15歳のコーヒー屋さん』
(岩野 響/KADOKAWA)現在、15歳のコーヒー焙煎士として、メディアで注目されている岩野響さん。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断され、中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学せずコーヒー焙煎士の道を選びました。ご両親のインタビューとともに、精神科医・星野仁彦先生の解説も掲載。