なぜ特別支援学級に行かなければならないのかー父親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(13)

なぜ特別支援学級に行かなければならないのかー父親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(13) 13.jpg10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断された岩野響さん。中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学しない道を選んだ15歳の「生きる道探し」とは?
著書『15歳のコーヒー屋さん』を通じて、今話題のコーヒー焙煎士・岩野響さんの言葉に耳を傾けてみましょう。

今回は岩野響さんの父親、開人さんが響さんの幼少期について語ります。

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前の記事「どうしても宿題ができなかった響ー父親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(12)」はこちら。

 

障害を知り、たちまち将来が不安になる

響が病院で「アスペルガー症候群」との診断を受けたとき、久美子は「これまでのできなかったことも、障害なら仕方がないね」と言って、私たちの育て方のせいではなかったことに、ほっとしていました。でも、ぼくは「じゃあ、この子はどうやって生きていくのかな?」という思いが先にきて不安になりました。

これまで障害のある子や人に接してきた経験もあまりなかったし、何より、障害がある人の暮らしというものも想像がつきませんでした。

障害があっても、この子は生きていかなければいけない。どんなにペースが遅くても、みんなと同じようなことができるようにならないと生きていけないんじゃないか。いずれはぼくたちのほうが先に死ぬわけだし、そうなったときに、響はどうやって生きていくのか......。

そんな不安のほうが先にたって、ほっとしてしまっている久美子とは意見が食い違うというか、焦りや不安の方向性が違う感じでした。

久美子は「ひーくんはひーくんだから、ひーくんに合う方法を見つけてあげたい」と言っていました。でも、ぼくは響が社会の中で受け入れられるためには、どうしたらいいのかと、対社会との関係性について悩んでいました。
 

障害者を取り囲む「社会の現実」に直面

「アスペルガー症候群」の診断がついた響に対して、小学校側からは特別支援学級への異動を提案されました。

クラスを騒がしくしている原因を作っている子たちが何人かいる、という話を響本人や同級生の親御さんから聞いていました。なのに、響だけクラスを移すということにはさすがにぼくたちも納得がいかず、学校側との話し合いを重ねました。「でしたら、授業を見せてください」と学校に見学に行くものの、その日だけはクラスに先生がいっぱいついていて、教室が静かになっていました。響から聞いている話とは全然違うわけです。

さらに、響は「支援学級には絶対に行きたくない」と言い張っているのに、先生からは「響くんが行きたいと言ってる」と言われます。障害というものに対して、教育現場や社会の対応とはどういうものなのかを、いやというほど思い知りました。

でも、学校とのやりとりをとおして、学んだことも多かったです。
自分たちにとって正論でも、それを正面からぶつけてもだめなんですよね。こちらが強い態度に出ると、相手もどんどん強硬になるだけ。壁を壊しても、次にはもっと頑丈で高い壁になって現れるという無力感を感じました。

生きていると、必ず壁にぶつかります。その壁を思い切りぶち破るのもいいかもしれないけど、かわす術(すべ)を身につけないといけないんだと、このときに学びました。

何かに文句を言って、反発し続けても変化はない。だから、私たちは夫婦で、家族で考えて考えて、みんながいい解決方法を見出すことに努力しました。

自分たちばかりにメリットがある解決方法だと、まず意見が通らない。先生には先生の立場がある。先生にも、クラスのみんなにも、響にもいい、落としどころはどこか、をすごく考えました。そして、それを伝えると「それはいいですね」と、先生も納得してくれるわけです。

現在のぼくは、自分の意見をなんとかしてわかってもらおうとするのではなく、わからないのもひとつの意見であって、自分がもう少し譲ることによって、わかってもらえることもあるのではと、考えています。

相手を変えることはできません。だけど、ぼくが相手の気持ちをわかっていれば、関係を変えることができると気づけるようになりました。

それは、響との付き合い方にもつながっています。響にはいろいろとできないことがあるけれど、できないことを無理にやらせるのではなくて、響ができるものを見つけるというように、意識が変わったのです。

 
撮影/木村直軌

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岩野 響(いわの・ひびき)

2002年生まれ。群馬県桐生市在住。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断される。中学生で学校に行けなくなったのをきっかけに、あえて高校に進学しない道を選び、料理やコーヒー焙煎、写真など、さまざまな「できること」を追求していく。2017年4月、自宅敷地内に「HORIZON LABO」をオープン。幼い頃から調味料を替えたのがわかるほどの鋭い味覚、嗅覚を生かし、自ら焙煎したコーヒー豆の販売を行ったところ、そのコーヒーの味わいや生き方が全国で話題となる(現在、直販は休止)。

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『15歳のコーヒー屋さん』

(岩野 響/KADOKAWA)

現在、15歳のコーヒー焙煎士として、メディアで注目されている岩野響さん。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断され、中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学せずコーヒー焙煎士の道を選びました。ご両親のインタビューとともに、精神科医・星野仁彦先生の解説も掲載。

『15歳のコーヒー屋さん』

 

「HORIZON LABO」公式ホームページはこちら「HORIZON LABO」コーヒー豆の通販はこちらで行っています。

 
この記事は書籍『15歳のコーヒー屋さん』からの抜粋です

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