加齢性難聴は認知症のリスクを高める⁉
――加齢性難聴なのに認知症と勘違いして間違った対応をしてしまうことで、どんなリスクがありますか?
荒井先生:聞こえが悪いと、周囲とのコミュニケーションが取りづらくなり、人との会話に臆病になるなど、精神的なストレスも増します。さらに周囲の人がその状況に気づいてあげられないと、「あの人は何を言っても反応ないよね」となってしまい、コミュニティの中で孤立してしまうことも。それがゆくゆくは認知症に関係していく可能性もあります。
――加齢性難聴を放っておくと、認知症になってしまうということですか?
荒井先生:加齢性難聴が認知症に直結するわけではありません。ただ、聞こえの問題を放置し脳への刺激が少なくなったり、社会的な交流が減って孤立した状況に置かれることで認知症のリスクを高めてしまうとは言えます。実際、難聴があっても補聴器で聞こえを確保している人は、補聴器を使っていない人に比べて、認知症テストの結果が良かったという調査結果もあります。これはおそらく、補聴器をつけることで以前と変わらず脳へ刺激が与えられ、周囲とのコミュニケーションも取れていたからと考えられます。その意味でも、加齢性難聴に早期から対応して聞こえを確保してあげることは、認知症の予防にもつながると言えると思います。
耳が遠い高齢者には、目を見て、ゆっくり、大きな声で話す
――聞こえを確保するために家族ができるサポートとしては、どんなことがありますか?
荒井先生:話すときは、まず相手の目を見て話すこと。耳が遠い人にしてみたら、違う方向を見て話されても、話しかけられているということ自体に気づけません。
――「あなたに話しているんだよ」とアピールすることが大切なんですね。
荒井先生:そうですね。それと、大きく口を動かし、ゆっくりとしたスピードで、単語ごとに区切って話すのもポイント。ジェスチャーも交えて話してあげると、何を話しているのかの推測がつきやすいので、聞き取りにくい言葉もわかりやすくなります。また、聞こえやすさに左右差がある場合も多いので、どちらが聞き取りやすいのかを確認し、聞き取りやすい側に向かって話してあげるようにしましょう。足腰の弱った方と一緒に歩くとき、その速度に合わせることと同じように、難聴のある方の聞きにくさに寄り添った対応を、周囲が心がけることが大切です。
聞こえづらくなったらメガネのように機器をつければいい
――聞こえを助ける機器として、補聴器や集音器がありますが、両者はどう違うのでしょう?
荒井先生:簡単にいえば、補聴器は医療機器で集音器は音響機器。補聴器は医師の指導のもと、自分に合った正しい聞こえの状態になるまでトレーニングが必要ですが、集音器は個人に合った細かい調整はできないものの、練習不要で誰でも手軽に使えます。いわば既製品の老眼鏡に近いイメージですね。
――老眼鏡と言われると、すごく身近に感じます。
荒井先生:以前、「歳をとって見えなくなったらメガネをかける。聞こえにくくなったら、聞こえやすくなる機器をつければいいじゃないか」といったCMがあったような気がしますが、その通りだと思います。老眼で老眼鏡を使うのと同じように、耳が遠くなったら聞こえやすくなる機器を使えばいい。