加齢による聴力の減退。認知症と間違えられるケースも...
今年の9月に総務省から発表された統計によると、65歳以上の高齢者の割合は総人口の29.3%と過去最高。超高齢化社会といわれる今、加齢による認知症や疾病の増加は避けられないものとなっています。そんななか、「言ったことをすぐ忘れる」「話しかけても反応が薄い」などの症状があるとつい認知症を疑ってしまいがちですが、老年内科で高齢者の総合的な内科診療に取り組んでいる荒井千明先生によると、「実は、加齢性難聴のケースも多い」とのこと。間違った対応をして症状を悪化させないためにも、身近な家族が正しい知識を持っておくことが大切です。今回は加齢性難聴の早期発見のポイントと対策についてお話をうかがいました。
「忘れた」のではなく「聞こえていない」
――加齢性難聴と認知症の症状は似ているのでしょうか?
荒井先生:症状自体は異なりますが、他人から見たら判断がつきにくいことも多いですね。外来でも「家族はちゃんと言ったのに、本人は何も覚えてない」と認知症を疑われて連れて来られる患者さんが多いんですが、実は覚えてないのではなく、そもそも聞こえていなかったというケースがよくあります。
――認知症ではなく、難聴で耳が遠くなっているため、聞こえてなかったと。
荒井先生:話を「うん、うん」とうなずきながら聞いているように見えても、実はぼんやりとしか聞こえていなくて、ちゃんと内容を聞き取れていないことも多いです。そのため、後から「そんなことは聞いていない」ってことになってしまう。でも言った側としては、「また忘れてる...」と思ってしまいますよね。実際、認知症を疑われたけど、実は重度な難聴だったという方はたくさんおられます。
加齢性難聴と認知症を見分けるポイント
――加齢性難聴と認知症を見分けるポイントはありますか?
荒井先生:「顔は覚えてるけど名前が出てこない」なんていうのは歳相応の物忘れ。40~50代になると、誰もがよくあることで、これは認知症とは違います。認知症の特徴は、最近のことをすっかり忘れてしまうこと。「昨日の夕食に何を食べたか」と聞かれても、
――私は50代ですが、昨日の夕食と言われてパッと思い浮かばないかも...。早くもマズイでしょうか?
荒井先生:若くても忘れることはよくあります。忘れていても、例えば「昨日は麺類だったよね?」などのヒントをもらえれば、「そういえばラーメンを食べた」と思い出せるようなら大丈夫。認知症ではありません。心配なのは、助け船を出してあげてもまったく思い出せない場合。「夕飯なんて食べてない」と言い張って怒り出したり、「興味ない」「話したくない」など、忘れたのをごまかしたりする場合も、認知症が疑われます。
――高齢者の場合、「忘れる」=「認知症」と決めつけてしまいがちですが、ヒントを出してあげて思い出せるようであれば、加齢性難聴の疑いもあるということですね。
荒井先生:そうですね。「すぐ忘れる」と認知症の疑いで連れて来られた患者さんでも、大きな声でゆっくり話してあげれば、ちゃんと理解できることも多いです。その場合は、認知機能は問題ないということになります。「忘れた」のではなく「聞こえてなかった」ことがわかれば、あとは家族など周りの人たちが対応を変えてあげればいいだけ。大事なことは大きな声でゆっくり話してあげることで、「言った」「聞いていない」というトラブルは減ると思います。また、早期に耳鼻咽喉科を受診するなど適切な手段をとることで、症状の悪化を防ぐことにも繋がります。