職場、恋愛関係、夫婦関係、家族、友人...。毎日自分以外の誰かに振り回されていませんか?
"世界が尊敬する日本人100人"に選出された禅僧が「禅の庭づくりに人間関係のヒントがある」と説く本書『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』で、人間関係改善のためのヒントを学びましょう。今回はその第21回目です。
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「孤独」と「寂しさ」は異なるものである
現代人、とくに若い世代は集団のなかの一員であることが好きなようです。好きという表現は少し違うかもしれません。グループ、集団に属していることで安心するといったほうがより正確でしょう。
たしかに、人には集団に属したいという欲求があります。米国の心理学者であるアブラハム・マズローが提唱した「欲求五段階説」でも、第三階層に「社会的欲求(帰属欲求)」が位置づけられています。グループの一員でいたい、仲間がほしい、というのは人の"性(さが)"といってもいいでしょう。
しかし、誰もが気軽にSNS上でつながることができる現代の結びつきは、確たる芯(しん)があって集団をなしているのではなく、ただ群れているだけのように思われてなりません。仲間としての意識も薄いのではないでしょうか。
たとえば、SNS上でつながっている一人が、もし、窮地に立って救いを求めたとしたら、真剣にそれを受けとめ、手を差し伸べる人が何人いるでしょう。フォロワーが何百人いたとしても、そうするのはおそらく一人か二人、ヘタをすれば一人もいないことだってあるかもしれません。何か事があれば、つながりの希薄さが露呈する。それが群れの実相だといっても、それほど的外れではないはずです。
人が群れる理由ははっきりしています。一人では不安だ、群れから弾き出されて孤独になるのは寂しい、というのがそれです。そこにあるのは「孤独(一人)=寂しい」という図式です。しかし、これには異論があります。私は、孤独であることと寂しさは異なるものだと思います。それをあらわしたお釈迦様の言葉があります。
「犀(さい)の角(つの)のようにただ独り歩め」
"孤独のすすめ"に聞こえませんか?
自分を確立するにも、自分が歩んでいく道を見定めるにも、孤独であることが必要なのです。群れのなかでもたれ合っていて、自分を確立することができますか?
どんな人生を生きていくか、それを見つけることができるでしょうか。
一人で静かに過ごす孤独な時間。そのなかでこそ、自己は形成され、確立されていくでしょうし、人生や使命というものについて真摯(しんし)に向き合えるのだと思います。はたして、その孤独は寂しいものでしょうか。自分はしっかり地に足がついているかどうかを見直したり、来し方行く末にも思いを馳せたりする、その時間はとても充実したものです。充実して過ごす時間が、寂しいものであるわけがありません。
「禅の庭」を構成している素材には、共通していることがあります。どの素材もそれ自体で確固たる存在感を感じさせるということです。石は石で、木は木で、白砂は白砂で、素材として輝いているのです。独自の世界をもつそれぞれの素材が、一つの空間に配されることによって、相乗効果的に作用し合い、統一感のある、あるいは溶け合った、新たな世界を展開しているのが「禅の庭」である、ということになります。
人間関係もやはり、自分を確立する(存在感をもつ)ということが前提になるのではないでしょうか。いい人間関係を結ぶには、おたがいが自己確立をしていることが大切です。そうでなければ、一方が他方にもたれかかったり、依存したりする関係になってしまう。それがいびつなものであることは、いうまでもないでしょう。
やるべきことは、安易に群れることではありません。充実した孤独な時間のなかで自分をしっかり見つめることです。
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1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授、庭園デザイナー。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。主な著書に『禅シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『怒らない 禅の作法』(河出書房)、『スター・ウォーズ禅の教え』(KADOKAWA)などがある
『近すぎず、遠すぎず。』
(枡野俊明/KADOKAWA)
禅そのものは、目に見えない。その見えないものを形に置き換えたのが禅芸術であり、禅の庭もそのひとつである。同様に人間関係の距離感も目に見えない。だからこそ、禅の庭づくりに人間関係のヒントがある――「世界が尊敬する日本人100人」に選出された禅僧が教える、生きづらい世の中を身軽に泳ぎ抜くシンプル処世術。