第一印象にとらわれず、相手を観察すると「気づき」がある/枡野俊明

第一印象にとらわれず、相手を観察すると「気づき」がある/枡野俊明 pixta_25764889_S.jpg職場、恋愛関係、夫婦関係、家族、友人...。毎日自分以外の誰かに振り回されていませんか?

"世界が尊敬する日本人100人"に選出された禅僧が「禅の庭づくりに人間関係のヒントがある」と説く本書『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』で、人間関係改善のためのヒントを学びましょう。今回はその第18回目です。

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前の記事「あの人の「短所」は改善できるか? 変えようがないか?/枡野俊明(17)」はこちら。

 

先入観にとらわれないよう人間観察する

人の人物像をつくり上げるうえで、第一印象はとても重要だとされています。はじめて会ったときに直感で感じとったものは、おおむね正しいという説は認めますが、それにこだわりすぎるのも健全とはいえません。

「禅の庭」の敷地にも"第一印象"がよくないものがあります。「う~ん、あの木の枝ぶりがちょっと邪魔だな」といった状況。そこで"枝が邪魔"ということにとらわれてしまうと、その視点でしか敷地を見られなくなります。そうしたとき私は、「邪魔な枝は切ってしまえ」という考えには至りません。

その理由は、時間帯を変えて敷地に立つと、思いもよらない発見をすることがあるからです。夕刻、沈みかけた太陽の光がその枝にあたり、大地に影を落としてすばらしい景観となっていたりするのです。

そこではじめて、邪魔と見えた枝がじつは「禅の庭」に陰影を与える、すぐれた素材であることに気づくわけです。"枝が邪魔"という先入観から離れることができなかったら、こうした気づきはありません。先入観にとらわれることなしに、よく観察するからこそ、気づきがあるのです。人を見る場合も同様で、先入観は危険です。

「なんだか、あの人いつも怒ったような表情で、気難しそうな人だな」そんな先入観をもつと、それが勝手にその人の人物像をつくり上げる土台になってしまうからです。その結果、気難しさをあらわす発言やふるまいばかりが目につくようになるのです。そして、「ほら、やっぱり気難しいじゃないか」ということになってしまう。

その人に気難しいという面は少々あったとしても、人は多面的ですから、それはあくまでもその人の一面にしか過ぎないのです。実際には、違う面をいくらでも持ち合わせていますし、そのなかには気難しさを補って余りある、素敵な面もあるはずです。

それに気づくためには、よく観察することです。観察のいちばんの妨げになるのは先入観ですから、それを取り払って観察する。すると、新たな発見があります。

「あれっ、他人に対してすごく気配りができる人なんだ」
「なに、なに、こんなふうに巧まざるユーモアを語れる人なのか」
「じつは、恥ずかしがり屋の一面を隠そうとしていたのですね」
こうした気づきを得ることができれば、多面的に見えている証拠です。

もちろん、逆も真なりですから、好ましいと感じていた人の嫌な面に気づくこともあるでしょう。しかし、それもその人の実像に迫っていくことですから、致し方なし、と受けとればいいのです。

人は先入観、思い込みといったバイアスをかけて他人を見がちです。それが人間関係をややこしくしている一因であることは否めないでしょう。そもそも、人の人物像というものが、そうやすやすと描けるはずがないのです。観察のうえにも観察する。人物像を描き始めるのは、それからでもけっして遅くはありません。

 

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枡野俊明(ますの・しゅんみょう)

1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授、庭園デザイナー。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。主な著書に『禅シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『怒らない 禅の作法』(河出書房)、『スター・ウォーズ禅の教え』(KADOKAWA)などがある

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『近すぎず、遠すぎず。』
(枡野俊明/KADOKAWA)


禅そのものは、目に見えない。その見えないものを形に置き換えたのが禅芸術であり、禅の庭もそのひとつである。同様に人間関係の距離感も目に見えない。だからこそ、禅の庭づくりに人間関係のヒントがある――「世界が尊敬する日本人100人」に選出された禅僧が教える、生きづらい世の中を身軽に泳ぎ抜くシンプル処世術。

 
この記事は『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』からの抜粋です

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