職場、恋愛関係、夫婦関係、家族、友人...。毎日自分以外の誰かに振り回されていませんか?
"世界が尊敬する日本人100人"に選出された禅僧が「禅の庭づくりに人間関係のヒントがある」と説く本書『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』で、人間関係改善のためのヒントを学びましょう。今回はその第17回目です。
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前の記事「自分自身に「自分の拠り所は何ですか?」とたずねてみる/枡野俊明(16)」はこちら。
「改善要因」と「阻害要因」に分けて考える
「禅の庭」をつくる敷地はさまざまです。もっといえば、一つとして同じ敷地はないといっていいでしょう。そして、どんな敷地にも必ず長所と短所が存在します。デザインするうえでの基本的な考え方は、長所はできるだけ伸ばし、短所は可能なかぎり緩和していく、消していくということです。
難しいのは後者かもしれません。そのため、私は短所を二つに分けて考えています。一つは改善要因、つまり、手を加えることによって気にならなくなる短所。もう一つは阻害要因、いくら工夫をしても変えようがない短所です。例をあげれば、敷地から目に入ってしまう電柱、ビル群といったものが改善要因にあたります。そのままでは景観を損ねてしまう"厄介者"ですが、前に大きな木を植えて視界を遮ることで、その短所は改善されます。
敷地の近くに大きな道路が通っていて、ひっきりなしに車が行き交う音が聞こえるといった環境は阻害要因にあたります。どんな手段を講じても車の音をなくすことはできません。しかし、これも手詰まりというわけではないのです。
たとえば、敷地内に壁をつくり、そこに水を伝わせるようにする。そうすることで、その水音が騒音を気にならない程度にまで緩和してくれます。滝を設(しつら)えて水の流れをつくるという手法も同じ効果があるでしょう。阻害要因に対しても、諦めずにとことん粘って、少しでも緩和する方向でデザインを考えるのが、枡野流です。
敷地同様、人も長所、短所をもっています。いいところばかりで非の打ちどころがない、完全無欠の人などいるわけもないのです。万々一いたとしても、そんな人は人間味に欠けますし、面白味もありません。
相手の長所は受け容れやすく、短所は受け容れにくい。それが人間関係でしょう。ですから、まずは長所を見つけるのが、いい人間関係を築くポイントになります。やさしさやおおらかさ、気配りや、思いやり......。そんなところを相手のなかに見つけたら、親近感も増しますし、心の垣根もすぐに外れて、スムーズに、また、積極的に関係を結ぶことができるはずです。
問題は短所です。こちらは改善要因と阻害要因に分けて考えてはいかがでしょう。もっとも、友人関係などプライベートなつながりでは、おたがいが長所を認め合い、短所は許し合っているはずですから、ことさら短所に目を向ける必要はないわけです。短所が許せない相手とは友人にはならないでしょう。
一方、ママ友どうしのつながりや、仕事上の関係などオフィシャルなつながりになると、関係を絶つことはできませんから、短所をどう受けとめていくかが課題になります。たとえば、仕事の上司が結論を出すのが遅いといったケース。提案書を出してもなかなか返事がもらえない、といった上司もいるでしょう。これは改善要因です。
上司本人はそれが自分のペースで、遅いという自覚がないことも考えられますから、提案書を出すときに「課長、お返事を〇日までにいただけるとありがたいのですが......」といった言葉を添えることで"改善"される可能性は充分にあると思います。
どう考えてもまったくソリが合わない、すこぶる相性が悪いというのは阻害要因になりそうです。人は気性も個性もそれぞれですから、なかにはそんな相手がいるかもしれません。この場合は、距離をおいて、必要最小限の事務的な付き合いだけをするのがいちばんでしょう。水と油のように、溶け合う余地がないのですから、できるかぎり接触を減らすのが最良の策です。
ママ友でいえば、子どものクラス替えがあれば、相手との関係は変わりますし、また、企業では人事異動がありますから、いつまでもその相手との上司・部下の関係が続くわけではありません。しばらくは「君子危うきに近寄らず」に徹して、精神的なストレスの緩和につとめてください。
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1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授、庭園デザイナー。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。主な著書に『禅シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『怒らない 禅の作法』(河出書房)、『スター・ウォーズ禅の教え』(KADOKAWA)などがある
『近すぎず、遠すぎず。』
(枡野俊明/KADOKAWA)
禅そのものは、目に見えない。その見えないものを形に置き換えたのが禅芸術であり、禅の庭もそのひとつである。同様に人間関係の距離感も目に見えない。だからこそ、禅の庭づくりに人間関係のヒントがある――「世界が尊敬する日本人100人」に選出された禅僧が教える、生きづらい世の中を身軽に泳ぎ抜くシンプル処世術。