自分自身に「自分の拠り所は何ですか?」とたずねてみる/枡野俊明

pixta_32865736_S.jpg職場、恋愛関係、夫婦関係、家族、友人...。毎日自分以外の誰かに振り回されていませんか?

"世界が尊敬する日本人100人"に選出された禅僧が「禅の庭づくりに人間関係のヒントがある」と説く本書『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』で、人間関係改善のためのヒントを学びましょう。今回はその第16回目です。

◇◇◇

前の記事「寝る前の「30分の儀式」で自分らしさを取り戻す/枡野俊明(15)」はこちら。

 

自分の核となる中心を定める

「禅の庭」の美しさの源泉は、それぞれの素材が的確な距離感をもって絶妙な調和を醸し出していることにある、といっていいかもしれません。それぞれの素材はどれもが大切かつ不可欠ですが、それでもその「禅の庭」が表現する世界の中心となっているものがあります。たとえば、石(石組み)です。石を中心として定めることで、その他の素材との距離感や向き(方向性)が決まってくる、あきらかになってくるのです。

石にかぎらず、灯籠(とうろう)や植栽が中心となる場合も、あるいは、滝などの水の流れが中心となる場合もあるわけですが、いずれにしても、中心を定めることは重要です。

さて、あなたは自分の中心、核になるものが定まっていますか?

こんな聞き方をしたほうがわかりやすいかもしれませんね。
「自分の拠(よ)り所は何ですか?」拠り所についてなんて考えたこともない。そもそも、拠り所がどんなものかもわからない。そんな人が少なくないのではないでしょうか。

私はこんなふうに考えています。人は悩んだり、戸惑ったり、迷ったりしながら生きています。それらが深まったとき、ふっと戻ってみたくなる心の場所。そこに立ち戻ることで悩みが吹っ切れたり、戸惑いが消えたり、迷いがなくなったり......する。それが拠り所だと思うのです。

信念、価値観というものに近いかもしれません。誰にでも、行動すべきか控えるべきかで悩む状況があると思います。その際に揺るぎない信念があれば、その信念に照らしてどちらかを判断することができるでしょう。また、その人と付き合うのがいいのか、距離をおいているほうがいいのかで迷うということもあるでしょう。そんなときにも、確たる価値観をもっていれば、いずれを選ぶべきかを示してくれるはずです。

たとえば、「卑怯なことはしない」という拠り所があったら(信念をもっていたら)、それが行動を起こすときの規範、あるいは自分のルールにもなります。仮に自分の利益になることであっても、卑怯なことならしないという結論がすばやく出せるわけです。

人はともすると、損得に振り回されがちですが、それがなくなり、生き方がシンプルになるのです。アップル社の創業者の一人であるスティーブ・ジョブズは、マーケティングリサーチをしなかったことで知られています。ヒット商品を生み出すためにマーケティングリサーチは必要というのが、いわば常識ですが、ジョブズはそれにはそっぽを向き、自分のつくりたいものをつくり続けた。

つくりたいものをつくる。そこに彼の拠り所(信念、価値観)があったということでしょう。アップル社は次々にヒット商品を世に送り出しましたが、それは世の中の流れに合わせて商品を開発したからではありません。いつも拠り所に立脚していたジョブズを、そのジョブズがつくり出す商品を、世の中が受け容れたのです。

拠り所は自分を知り、見つめるなかで見つけ出すものです。その作業を怠らないでください。その際に心にとめておいていただきたいのが、その拠り所をもって生きることが、世の中のためになるか、人のためになるか、という視点をもつということです。この二つは拠り所を定めるうえでのフィルターです。このフィルターを通り抜けてきたものであれば、間違いのない拠り所、自分の核となります。

 

次の記事「あの人の「短所」は改善できるか? 変えようがないか?/枡野俊明(17)」はこちら。

枡野俊明(ますの・しゅんみょう)

1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授、庭園デザイナー。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。主な著書に『禅シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『怒らない 禅の作法』(河出書房)、『スター・ウォーズ禅の教え』(KADOKAWA)などがある

60f3931ec12e471af64dbff2eaf516b045d4d43d.jpg

『近すぎず、遠すぎず。』
(枡野俊明/KADOKAWA)


禅そのものは、目に見えない。その見えないものを形に置き換えたのが禅芸術であり、禅の庭もそのひとつである。同様に人間関係の距離感も目に見えない。だからこそ、禅の庭づくりに人間関係のヒントがある――「世界が尊敬する日本人100人」に選出された禅僧が教える、生きづらい世の中を身軽に泳ぎ抜くシンプル処世術。

この記事は『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』からの抜粋です
PAGE TOP