「沈黙」は、言葉で言い尽くせない思いを語ってくれる/枡野俊明(10)

pixta_17885266_S.jpg職場、恋愛関係、夫婦関係、家族、友人...。毎日自分以外の誰かに振り回されていませんか?

"世界が尊敬する日本人100人"に選出された禅僧が「禅の庭づくりに人間関係のヒントがある」と説く本書『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』で、人間関係改善のためのヒントを学びましょう。今回はその第10回目です。

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前の記事「多くの友達より、目の前の一人をそっと抱き締める/枡野俊明(9)」はこちら。

 

言葉だけに頼らない

あなたは話すのが得意でしょうか、それとも聞くのが得意ですか?
誰かとコミュニケーションをとるとき、特段、相手の性格が嫌いではなくても、「会う」こと「話す」こと自体を苦痛に感じる人もいるでしょう。「何から話せばいいのだろう」「どんなふうに受け答えしたらいいのだろう」と考えてしまう。「気の利いたひとことでもいわないとダメだろうな」と思ってしまう。これでは会う前からあれこれと思い悩むことになって、疲れてしまいます。

人のコミュニケーションは言語でのやりとりが約七割といわれています。ただし、私は、うまく言葉にできなくてもいいと思っています。そんなことをいうと、無責任だと感じるでしょうか。しかし、言葉だけに頼ると、話す側も聞く側も、心が窮屈になっていくことがあるのです。

心に浮かんだことを言葉にして語ってはみたものの、語り終えてから「なんだか違うな」と思ったことはありませんか?

言葉を畳みかければかけるほど、ほんとうの思いからずれていってしまう。そんな経験は誰もがもっているのではないでしょうか。

私は「禅の庭」をつくるときに「余白」を大切にします。敷地にぎっしり石を敷き詰め、所狭しと樹木を植えたりはしないのです。なぜなら、何もない空間、いわば「余白」が、「禅の庭」の印象づくりに大きく作用するからです。「余白」があるからこそ、「禅の庭」を見る人は、見る人なりの思いを、そこに注ぎ込むことができるのです。

会話も同じです。余白にあたるのが「沈黙」ですが、それを恐れてはいけない、と私は思っています。ときには言葉よりも雄弁に、あるいは、言葉では言い尽くせない思いを、沈黙は語ってくれます。

 

心は言葉を超越する

最近はSNSなどを通じての失言が増え、いろいろなところで「炎上」が起こり、問題になっています。誰もが気軽にメッセージを発信できるようになった結果、まさに「口は禍のもと」になっているのです。言葉にして語ることで失ってしまうものもあることを知ってください。心を伝えるのは言葉の数ではありません。

自分の思いとしっかり結びついた言葉であれば、どんなに数が少なくても、それは必ずや相手の心に届きます。たとえば、ご馳走を用意してくれた相手に対して、その料理の一つひとつをまるでリポーターのように賞賛できる人もいるでしょう。しかし、つくってくれたことに感謝し、おいしくいただいていることを伝えるのであれば、「ありがとう」のひとことだっていいのです。いや、むしろ、そのほうが相手の胸に響くのではないでしょうか。

「せっかく用意してくれたのだから、何かいいことをいわなくては」という思いから、美辞麗句を並べ立てていくら賞賛したところで、そこに心は宿っていません。

語り尽くさない。それは奥ゆかしさでもあります。相手のことが心配だからといって、あれこれと口うるさくいってしまうと、かえって敬遠されて人間関係がギクシャクしてしまうこともあります。

黙って、ただ相手の話を聞く。その奥ゆかしさが、相手の言葉を引き出します。「彼はいつもやさしく私の話を聞いてくれるから、何でも打ち明けられる気がする」ということになるのです。相手が転んでしまわないだろうか、と心配を募らせて、こっちに行くと石があります、あっちに行くと岩がありますよ、と行く前からあれこれ指図するかのようにいうのではなく、心配していることや応援している気持ちだけを伝えて、あとは静かに見守る。もしも転んだら、そっと駆け寄って助けてあげる。

そんなコミュニケーションを心がけると、人間関係はずっと風通しのよいものになります。そして、深みのあるあたたかいものになるはずです。

 

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枡野俊明(ますの・しゅんみょう)

1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授、庭園デザイナー。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。主な著書に『禅シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『怒らない 禅の作法』(河出書房)、『スター・ウォーズ禅の教え』(KADOKAWA)などがある

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『近すぎず、遠すぎず。』
(枡野俊明/KADOKAWA)


禅そのものは、目に見えない。その見えないものを形に置き換えたのが禅芸術であり、禅の庭もそのひとつである。同様に人間関係の距離感も目に見えない。だからこそ、禅の庭づくりに人間関係のヒントがある――「世界が尊敬する日本人100人」に選出された禅僧が教える、生きづらい世の中を身軽に泳ぎ抜くシンプル処世術。

この記事は『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』からの抜粋です
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