テレビやネットにあふれるあやしげな健康情報や社会の思い込み。あなたはいつのまにか信じてしまっていませんか?
だまされないでください。
医師にして作家である鎌田實が50年近く医療に携わることで気づいた、健康のための王道をまとめた書籍『だまされない』で、「健康で幸せに生きるという目標」を達成するための技術を身に付けましょう。
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前の記事「「魚でうつ病が減る」というウソみたいな本当の話/鎌田實「だまされない」」はこちら。
極端な健康情報に真実なし
NHKの人気健康情報番組『ガッテン!』が、睡眠薬で糖尿病が治療できるかのように放送し、謝罪に至ったという出来事がありました。僕はNHKの番組審議会の委員をしています。NHKの番組はBSも含めて健康に関する番組は科学的な根拠に基づいて、丁寧につくられていることが多いと思っています。
しかし問題があるときには苦言を呈します。このときも釘を刺しました。睡眠障害があると血糖値が上がるという事実があっても、だからといって睡眠薬を飲めば糖尿病を防げると誤解されるようなつくり方をしたのはいただけません。
睡眠薬は糖尿病の薬ではない
睡眠薬は不眠を訴える人に処方される薬として認可されています。それを糖尿病の人に血糖値を下げる目的で用いることには、保険適用されません。ただでさえ、日本は先進国のなかでも精神安定剤や睡眠薬の使用量が多く、安易に使用されているのではないかと指摘されているのです。
健康情報はシンプルに伝えたほうがわかりやすく、インパクトがあります。
しかし、人体はそれほど単純ではない。たとえば「血液循環がよくなる」として、1日2リットル以上の水を飲むことを課している人がいます。一見、身体によさそうですが、とんでもない。腎機能が弱い人は、大量の水を飲むことで腎臓に大きな負担をかけることになります。水の飲みすぎが腸内環境を悪化させることだって考えられます。
「週1日休肝日で安心」はウソ
「週に1日、休肝日を設ければアルコールは心配なし」というのも誤解です。週1日だけ休肝日を設けていても、残りの6日間に大量のお酒を飲んでいれば、アルコール性肝障害を起こす危険性が高まります。1日飲まないからといって、大丈夫と思うのは間違いです。酒飲みの言い訳にしかならない、都合のいい解釈です。
最近では糖質制限すればやせられるという情報が広がっています。これはある意味では正解ですが、ある意味では不正解。極端に糖質制限すると、筋肉中のタンパク質がエネルギーとして使われるために、筋肉が減少します。筋肉が減ると、脂肪が燃焼しにくい身体になってメタボになり、さらには〈フレイル〉という肉体的虚弱な状態に陥ってしまうからです。
鎌田流の健康で幸せに生きるための極意では、お金より筋肉が大切だと考えています。そして、いい筋肉をつくるためにはタンパク質が必要となります。
貯金より貯筋が大事
鎌田流のダイエットは食べないダイエットではありません。肉や魚などのタンパク質は、基本的に身体が欲しがるだけ食べていい。極力、野菜も食べます。ただし、糖質、特に甘いものは注意。そして大切なのが運動です。
この4つを守ると、たいていの人は1キロくらいすぐ減ります。それでも減らないときには、3日間ほど糖質制限をする。
僕はおいしいものを食べるのが好きです。焼肉屋ではカルビを3人前ぐらいペロッと食べます。そんな不摂生が続いたあとは、糖質制限。ご飯、パン、うどん、甘いものを一切食べないようにします。
しかし糖質制限は長く続けません。先ほど申し上げたように、極端な糖質制限は身体によくないからです。だから糖質制限は3日間くらいにとどめます。ダイエットというと、糖質を一切とらないなどの極端な方法に走りがちですが、極端よりも、バランスが大事ということを覚えておいてください。
※『毎日が発見』本誌に連載した記事はこちら。
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1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』ほか多数。
(鎌田 實/KADOKAWA)
社会は人をだます。人も自分をだます。実は自分の身体すらも自分をだましにかかってくる。そんな環境に生きながらも、幸せに生きるためにはなにを知るべきか、どうすべきか、どう考えるべきか。医師にして作家である鎌田實が、その答えに迫ります。健康問題から社会問題まで、翻弄される人々の目覚めを促す言葉の劇薬!