花粉症の人にとって、春先はつらい症状に悩まされる季節。花粉症は、花粉によって 起こされるアレルギー疾患で、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどの症状が現れます。
日本医科大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学教授で、花粉症治療、特に舌下免疫療法の研究・治療に当たっている大久保公裕先生に、その原因などをお聞きしました。
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【治療その3-1 舌下免疫治療法】
自宅で行う最新治療。スギ花粉エキスで体を花粉に慣らします
アレルギーを引き起こす原因物質を体内に取り入れ、体に順応させていく治療法を「アレルゲン免疫療法」といいます。その治療法の一つとして、花粉やハウスダストなどのエキスを皮膚に注射する「皮下(ひか)免疫療法」が従来から行われてきました。
スギ花粉症と他のアレルギー疾患を併せ持つ人に適しています。最初の時期は週1~2回の頻度で通院して注射を受け、2~3年間治療を続けます。注射の痛みや通院回数が患者の負担になることが多く、頻度は少ないものの、アナフィラキシー(全身に急激なアレルギー反応が起こり、呼吸困難や血圧低下、意識消失などの症状が引き起こされる状態)の副作用が起こる恐れもあります。
「皮下免疫療法」は通院して注射を受ける治療法ですが、一方で自宅で自分で行う「舌下(ぜっか)免疫療法」という治療法もあります。アレルゲン免疫療法の最新治療で、スギ花粉のエキスを飲み込み、体を花粉に慣らしていきます。
舌下免疫療法は、健康保険が適用されており、花粉エキスの費用は3割負担で1カ月当たり1000円程度です。
舌下免疫療法に詳しい大久保先生は「自宅でできる治療法なので続けやすく、皮下免疫療法に比べて副作用も少ないと報告されています。花粉症では、鼻だけでなく、目の症状も起こりやすくなりますが、舌下免疫療法は、スギ花粉症における全ての症状に対して効果が期待できます。ただし、スギ以外の花粉症の人やダニなどのアレルギーを併せ持つ人、ぜんそくや自己免疫疾患などの持病のある人、また現状は12歳未満の子どもには行えません」と話します。
花粉症の「対症療法」と「根治療法」
花粉症の発症は、コップに注いだ水があふれる様子に例えられる。水(花粉症を起こす原因)がコップの許容量(アレルギー体質)を超えてあふれると、花粉症の症状が現れる。
「対症療法」
◎薬物療法、レーザー手術など
コップからあふれてしまった水を拭き取る(花粉症の症状をその都度抑える)。
「根治療法」
◎皮下免疫療法、舌下免疫療法
コップを取り換えて、水があふれないようにする(アレルギー体質を治す)。
舌下免疫療法のポイント
●対象はスギ花粉症のみ。
●注射は不要で痛みを伴わない。
●基本的に自宅でできる。
●2年間続ければ7~8割の人に効果。
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取材・文/髙森千織子 イラスト/やまだやすこ
大久保公裕(おおくぼ・きみひろ)先生
日本医科大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学教授。日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長。日本医科大学大学院耳鼻咽喉科修了。米国立衛生研究所(NIH)に留学後、日本医科大学医学部准教授を経て現職。花粉症治療、特に舌下免疫療法の研究・治療に当たっている。