「すぐにイライラしてしまう」「なんとなくモヤモヤする」...そんな「負の感情」との付き合い方に悩んでいませんか?
年齢を重ねれば誰もが感情のコントロールが難しくなるもの。「負の感情」をコントロールし、スッキリ生き生きと生きるために、脳科学や心理学の知見によって得られた効果のある実践的な方法を、書籍『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』から学んでいきましょう。
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感情を押し殺さないようにする
さて、本書のテーマは感情をいかにコントロールするかということですが、いかにも感情を持たないことが理想であるかのようにとらえられてしまうのは本意ではありませんから、少し説明しておきたいと思います。
感情はコントロールすべきものであって、なくしてしまっていいものではありません。すべての感情をなくしてしまえば、ロボトミー手術を行った人以上に(彼らだって感情はあります)、何にも感動も面白さや楽しみも得られない人生を送ることになってしまうことでしょう。
喜怒哀楽の感情は悪いものではありません。怒りという感情でさえ、人間にとってなくてはならないものなのです。わけもなくイラついたり、腹立ちが止まらなくなるのとは違い、理由があって怒るのは健康な感情のひとつといえます。
ひどい政策を打ち出す政治に憤怒すれば異議を唱えることができるし、少なくとも投票行動に示すことはできます。反社会的なことをしている上司や同僚に怒りを覚えて内部告発するという直接的なものだけでなく、怒りがあるからこそ、建設的な提言が生まれるということがあります。
不平不満を解消しようという気持ちを持つことは、新しいビジネスのヒントになることだってあります。
私がいつも怒りを感じるのは、道路に左折レーンがないことです。渋滞する交差点でやっと信号が青になったと思ったら、左折する車が歩行者の横断を待っているために進めないということがよくあります。すぐに歩行者が途切れればよいのですが、数珠つなぎになっているときにはそうこうしている間に信号が赤になってしまい、数メートルしか進めないということがあります。
アメリカなどでは日本の左折レーンに相当する右折レーンがあり、原則として信号が赤でも右折可なので、そのためにレーンが渋滞することがほとんどありません。日本の道路が狭いという事情があるのかもしれませんが、もっと左折可のレーンをつくって、交差する車が右折している間、左折信号が青になれば、大幅に渋滞が緩和されると思うのです。
こうした怒りや不平不満をもっておけば、どこかで提言できる機会があるかもしれませんし、意見が回りまわって少しは採用されるということもあるかもしれません。そうなれば、怒りや不平不満も建設的な議論に大いに役立てられるのです。
つまり、感情は抑え込むものではなく、そのエネルギーを注ぐ方向性を間違わないようにすればいいだけなのです。間違った方向とは、暴言や暴力に訴えるといったことです。あるいは、逆恨みをしたり、嫌がらせやいじめをしたりするのが問題であるわけです。
カッとなって部下を怒鳴っているときに、自分が腹を立てていることに気づかないのが問題なのであって、脳のある一部分では冷静に怒っている自分を見つめていれば、集積も可能です。
つまり、部下を叱ったとしてもすぐにフォローするとか、冷静に次の指示をするとか、切り替えができることが大事なのです。感情を持つことは人間として自然なことですから、それをどのように表現するかを考えることです。間違った表現の仕方をしていないかをいつも気にかけることが必要です。
そして、その感情をいつまでも引きずることなく、切り替えができるようになることが、さらに重要なことと私は信じています。
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和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年、大阪府生まれ。精神科医。1985年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て独立。エグゼクティブ・カウンセリングを主とする「和田秀樹こころと体のクリニック」を設立し、院長に就任。国際医療福祉大学大学院教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)、川崎幸病院精神科顧問。老年精神医学、精神分析学(とくに自己心理学)、集団精神療法学を専門とする。著書に『感情的にならない本』(新講社)ほか多数。
『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』
(和田秀樹/KADOKAWA)感情の不調は"脳"で治す! 医師にしてベストセラー作家が教える、誰でもできる習慣術。「笑い」を解放することが前頭葉を刺激する、「"こだわり"にこだわらない」がポイント、競輪競馬やゴルフ、マラソンの向上心は脳にいいなど、脳科学や心理学の知見によって得られた「効果のある」「実践的な方法」を一挙に紹介!