「奇跡の手術」から「悪魔の手術」になったロボトミー手術/「感情に振りまわされない人」の脳の使い方(3)

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「すぐにイライラしてしまう」「なんとなくモヤモヤする」...そんな「負の感情」との付き合い方に悩んでいませんか? 
年齢を重ねれば誰もが感情のコントロールが難しくなるもの。「負の感情」をコントロールし、スッキリ生き生きと生きるために、脳科学や心理学の知見によって得られた効果のある実践的な方法を、書籍『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』から学んでいきましょう。

前の記事「「楽しい」「怖い」などの感情は大脳辺縁系で生まれている/「感情に振りまわされない人」の脳の使い方(2)」はこちら。

感情のコントロールは脳の前頭葉が司る

「感情は大脳辺縁系で発生する」ことは1930年代にはすでに想定されていました。その後の研究の結果、さらに重要なことが分かってきました。
実は、感情のコントロールをする具体的な場所が、脳内の大脳新皮質の中でもとくに前頭葉と言われる場所なのではないか、ということが想定されるようになってきたのです。
大脳新皮質は、大脳辺縁系の周囲をぐるりと覆っていて、その場所によって、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分かれます。前頭葉は頭の前方の部分であり、おでこの裏側に位置しています。

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なぜ、「前頭葉が感情をコントロールしている」といえるのでしょうか。
たとえば脳梗塞とか脳腫瘍といった脳の病気になると、脳がダメージを負った場所によっては、計算ができなくなったり、言葉がうまく出なくなることがあります。これは脳の場所によって担当する分野が違うために起こります。

ところが、前頭葉がダメージを負った場合、意外にも知能テストの成績は下がりません。下がるのは感情のコントロールをする能力です。
このことはポルトガルのエガス・モニスという医師が第二次世界大戦前の1935年に発明したロボトミー手術の後遺症が、1950年代に明らかになってから想定されるようになったのです。

ロボトミー手術は脳の前頭葉をその他の部分から切り離す手術です。複数の手術方法がありますが、頭蓋骨に穴をあけ、長いメスで前頭葉を切る方法や、眼窩(がんか)からアイスピックを打ち込み、神経繊維の切断を行うような方法がありました。
このときにはすでに前頭葉が悪感情に影響を与えるのではないかという仮説が立てられていて、それまで治療法がなかった統合失調症やうつ病などの精神疾患を改善する目的でロボトミー手術は発明されたのです。

その後もアメリカの精神科医ウォルター= フリーマンなどにより、精神疾患の患者さんに対してロボトミーなどの手術が行われた結果、精神疾患の患者さんの凶暴性を抑えるという効果が得られることがわかり、画期的な治療法として世界各地で盛んに行われることとなります。

ロボトミーの発明者であるモニスは、「ある種の精神病に対する前頭部大脳神経切断の治療的意義の発見」という受賞理由で1949年、ノーベル医学・生理学賞を受賞しました。
確かに、ロボトミー手術を行うと知能はまったく落ちないうえに、感情的には落ち着くのですから画期的なものです。

しかし、モニスが受賞したころから、一方で、無気力、無感動になり、人間性が失われることがわかりました。これによって「奇跡の手術」だったロボトミー手術は、一転、「悪魔の手術」として全世界で廃止されるようになりました。
しかし、このことから、感情のコントロールには前頭葉が深く関与していることがわかったのです。

その後、1990年代後半から2000年代の初めにかけて科学的な測定装置の発達もあり、脳内の血流の様子がわかるようになって脳科学は急速に発達していきました。MRIの機能を利用して、脳の血流の様子が可視化されるようになってきたのです。
その結果、人間がどんな行動をとったとき、脳のどの場所が主に働いているかがわかるようになってきました。

たとえば、被験者に計算問題をやらせたときと音読をさせたときでは、血流が活発に流れる場所が違います。それによって「計算問題は脳のこの場所で主に行っているのだな」ということがわかるようになってきました。

ところが、計算は角回(かくかい)という場所が中枢と考えられているし、音読する際の言語の理解は側頭葉の言語野が中枢と考えられていて、確かに、これらの作業で、その部分の血流が増えるのですが、前頭葉の前頭前野のほうがもっと血流が増えることも明らかにされました。要するに、計算や音読で前頭葉を活性化できるというわけです。

別の実験では、人間はパニック状態になっているときに、前頭葉の血流が大幅に減っていることがわかり、前頭葉がうまく働かないと感情のコントロールが効かないということは、おおむね確定的になったのです。

 

次の記事「感情がコントロールできなくなる3つの要因/「感情に振りまわされない人」の脳の使い方(4)」はこちら。

和田秀樹(わだ・ひでき) 

1960年、大阪府生まれ。精神科医。1985年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て独立。エグゼクティブ・カウンセリングを主とする「和田秀樹こころと体のクリニック」を設立し、院長に就任。国際医療福祉大学大学院教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)、川崎幸病院精神科顧問。老年精神医学、精神分析学(とくに自己心理学)、集団精神療法学を専門とする。著書に『感情的にならない本』(新講社)ほか多数。

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『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』

(和田秀樹/KADOKAWA)

感情の不調は"脳"で治す! 医師にしてベストセラー作家が教える、誰でもできる習慣術。「笑い」を解放することが前頭葉を刺激する、「"こだわり"にこだわらない」がポイント、競輪競馬やゴルフ、マラソンの向上心は脳にいいなど、脳科学や心理学の知見によって得られた「効果のある」「実践的な方法」を一挙に紹介!

この記事は書籍 『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』からの抜粋です

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