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「すぐにイライラしてしまう」「なんとなくモヤモヤする」...そんな「負の感情」との付き合い方に悩んでいませんか?
年齢を重ねれば誰もが感情のコントロールが難しくなるもの。「負の感情」をコントロールし、スッキリ生き生きと生きるために、脳科学や心理学の知見によって得られた効果のある実践的な方法を、書籍『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』から学んでいきましょう。
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前の記事「知らない分野の話を無批判に受け入れるのは前頭葉機能の衰えから/「感情に振りまわされない人」の脳の使い方(17)」はこちら。
感情を使わないと早死にすることもある
本書では、前頭葉を使って感情をコントロールする側面ばかりを強調した印象がありますが、忘れてはいけないのは、前頭葉は感情的な脳でもあるということです。いつも精神的に冷静でいることは必要ですが、一方で感情を使うことも大事です。
もちろん感情に支配されて、暴力に訴えるようなことはよくありませんが、ここでいう「感情を使う」の意味は、喜怒哀楽を感じる感性が必要だということです。
たとえば、感情的に不満を抱き、会社では上司に逆らい、定説を否定し、それから場合によっては感動して涙を流すといった、感情的な状態のほうがいろいろなアイデアも出てきたり、前頭葉も働くのです。芸術家は喜怒哀楽を投影することで、作品に命を吹き込みます。そうした行為も前頭葉の働きとして注目したほうがいいのです。
いつも冷静でいるというのは、無感動人間であることとは違うのです。
言うまでもなく、人間の肉体同様、脳も鍛えて感情の老化を予防しなければなりません。感情の老化予防は、肉体を使い続ければ老化予防ができるのと同じように可能なはずです。
たとえば、家庭を持っている中高年が子どもの成長が嬉しいとか、休日に配偶者と外食したり、あるいは仕事で成果を上げて充実しているといった出来事に恵まれれば、嬉しいという感情が生まれます。
また、自分で汗を流してゴルフをプレーして、高スコアを出せば気分がいいものですし、自分でプレーしなくても観戦していて贔屓のチームが勝てば、気分が高揚することもあるでしょう。あるいは、昔の友達や会社の同僚、気心の知れた得意先などと交流すれば気分がよくなるものです。これもやはり感情が刺激されていることによるものです。
こうした感情の高揚は、単に脳にいいだけでなく、知的な意味でも好ましい影響を及ぼしてくれるかもしれません。というのは、そういう時のほうが、いろいろなことに関心がもてるからです。
以上のように、公私かかわらず自分の感情を刺激する試みをしてみるといいのです。感情というものは奇妙なもので、自分の老化がある程度進んでしまうと、少しばかり刺激しても効果が薄くなってしまうものです。
感情の刺激が少なくなってしまうと、気力が衰えるだけでなく、知力も刺激されず、ひいては体力も衰えてしまう危険があります。大げさにいえば命の維持にも悪い影響を与え、早死にすることもあり得るのです。
ですから中年以降は、心身ともに自らを刺激し、発奮する試みが求められるのです。そうしてこそ、脳の機能の維持・発展が望めるのです。
次の記事「日本人がクリエイティブでないのは前頭葉が働いていないから!?/「感情に振りまわされない人」の脳の使い方(19)」はこちら。
和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年、大阪府生まれ。精神科医。1985年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て独立。エグゼクティブ・カウンセリングを主とする「和田秀樹こころと体のクリニック」を設立し、院長に就任。国際医療福祉大学大学院教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)、川崎幸病院精神科顧問。老年精神医学、精神分析学(とくに自己心理学)、集団精神療法学を専門とする。著書に『感情的にならない本』(新講社)ほか多数。
『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』
(和田秀樹/KADOKAWA)感情の不調は"脳"で治す! 医師にしてベストセラー作家が教える、誰でもできる習慣術。「笑い」を解放することが前頭葉を刺激する、「"こだわり"にこだわらない」がポイント、競輪競馬やゴルフ、マラソンの向上心は脳にいいなど、脳科学や心理学の知見によって得られた「効果のある」「実践的な方法」を一挙に紹介!