この臭い・・・ウソでしょ!? 父が服に便をこすりつけた理由/認知症の人が見ている世界

便を便だと認識できず、ほかの物と誤認している可能性があります

弄便とは、自分が排泄した便を手でいじってみたり、壁や服になすりつけたりする行為のことです。

不快な悪臭や不衛生のため、家族にとっては大きな負担になりますし、その場面を見るととてもショックだと思います。

弄便も、暴言・暴力と同じように、アルツハイマー型認知症が重症化した入り口の時期(FAST6)に差しかかると多く見られる症状です。

弄便は、主に便を便だと認識できていないために起こる行動だと推測されています。

アルツハイマー病では特に嗅覚が衰え、便の臭いを認識できず、ほかの物と誤認してしまうのです。

認知症であっても、便が便器の中にあれば便だと認識できたかもしれません。

しかし、床の上にあると形状が似ているチョコレートやかりんとう、あんこなどと誤認してしまう可能性があります。

その場合、便を口に入れることも考えられるでしょう。

マンガでは、便失禁のため、床の上に便が落ちているのを見つけた状態を想定しています。

肛門括約筋や腸が衰えると便失禁が起こりやすくなりますが、もれ出た便を便だと認識できず、手についた汚れをどうにかしようとして自分の服で拭いてしまったのです。

介護の専門職は、排泄の失敗が起こったら、まず「スッキリしてよかったですね」と声かけするようにしています。

認知症の人は腸の働きが衰えて便秘がちになり、腹痛や残便感などでストレスをため込んでしまう人が多く、弄便があったとしても、便が出たこと自体は喜ばしいからです。

家族は受け入れるのが難しいかもしれませんが、カッとなって叱しかりつけても、ご本人は便だと認識できていないので、なぜ怒られているのかを理解できません。

「突然怒られた」という不快感が強く残ってしまい、逆効果になってしまいます。

介護がつらいときは、悩みを1人で抱え込まずに誰かに相談するようにしてください。

また、排泄は密室で行う生活の動作なので、1人で不安にならないように声かけを行うようにしましょう。

対応のポイント

●カッとなって叱りつけても、本人はなぜ怒られているのか理解できず逆効果になる可能性があるので、叱責しないように気をつける。

●介護のストレスがたまり、どうしてもつらいときは、1人で抱え込まず誰かに相談する。

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認知症ケアに携わってきた著者が、実際に接してきた中で気づいたケーススタディがマンガでわかりやすく解説されています

 

川畑智(かわばた・さとし)
理学療法士、熊本県認知症予防プログラム開発者、株式会社Re学代表。熊本県を拠点に、病院や施設における認知症予防や認知症ケアの実践に取り組む。

 

遠藤英俊(えんどう・ひでとし)
聖路加国際大学病院臨床教授、元国立長寿医療研究センター長。認知症や医療介護制度などを専門とし、国や地域の制度・施策にもかかわりが深い。

 

浅田アーサー(あさだ・あーさー)
マンガ家。

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『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』

(著:川畑智、監修:遠藤英俊、マンガ:浅田アーサー/文響社)

認知症って、何もかもがわからなくなるわけではないの? 認知症の人が見ている世界を知り、「なぜ?」を解決できると、介護はもっとラクに。認知症ケアの第一人者がひも解いた、マンガでわかる介護メソッドです。

※この記事は『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』(著:川畑智、監修:遠藤英俊、マンガ:浅田アーサー/文響社)からの抜粋です。
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