顔の認識が苦手になると、声や服装など全体の雰囲気で判別するようになります
人の見当識障害が起こると、家族や親戚、友人といった身近な人でも認識するのが苦手になります。
親から「あなたはどなたですか?」などといわれると、家族としてはショックを受けるのも無理もないことです。
認知症の人は過去の世界に戻っている場合があり、女性なら、自分が子育てをしていた20~40代に戻っていることが多く、中には10代にまで戻ってしまうケースもあります。
この例でも、娘さんのことを娘だと認識できてはいるものの、「自分は40代なので娘はまだ10代。自分にはまだ孫はいないはず」と思い込んでいるので、目の前にいる人の年齢と自分の認識の辻褄が合わず、お孫さんと自分の関係がわからなくなっていると考えられます。
また、視覚をつかさどる後頭葉が衰えると、相貌失認といって人の顔を見分けるのが難しくなることがあります。
そうなると、認知症の人は、顔ではなく、声・体格・話し方・服装・アクセサリーなど総合的な「雰囲気」でその人が誰かを判断するようになります。
つまり、このケースでは「10代で学生服を着ている男の子なら娘の友達だろう」と判断していることが考えられるのです。
認知症の人は、目の前にいる人が本当に誰だかわからない状態なので、間違いを正しても困惑してしまいます。
こうした認識のズレがわからないまま接していても、ますます困惑して本人の不安が増して自尊心を傷つけることになります。
このような場合も、認知症の世界に寄り添い、本人がどうすれば安心するかを考えて接するように心がけてください。
例えば、認知症の人は話すときに優しく手に触れるととても安心します。
「この人といると心地いい」と感じると、その人の印象がよくなり、心が安らいで症状の治まる可能性があります。
認識が正されないようなら、一時的にお孫さんを「友達だよ」と紹介して話を合わせてもいいかもしれません。
対応のポイント
●誤りを正そうとすると、さらなる不安につながるので、無理に訂正はせず、安心させるために一時的に話を合わせるといい。
※ただし、あくまで安心させることが目的で思い込みが定着しないように注意する。
●スキンシップを取りながら話すと安心してもらいやすくなる。
【次回】「近所なはずなのに・・・ここどこ?」お母さん、どうしてこんな遠くまで?/認知症の人が見ている世界
認知症ケアに携わってきた著者が、実際に接してきた中で気づいたケーススタディがマンガでわかりやすく解説されています