コレステロールは、血液に混じって全身の細胞に届けられ、細胞膜、ホルモン、胆汁などの原料になる、体に有益な物質です。もともと有益な物質なのに、なぜ体に悪影響を及ぼすのでしょうか。寺本内科・歯科クリニック内科院長の寺本民夫先生に聞きました。
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■コレステロール値はなぜ上がる?
体内のコレステロールの約70~80%は肝臓で合成され、残りは食事から取り込まれます。コレステロールの多い食事を取れば肝臓で合成される量が減り、逆の場合は肝臓で合成される量が増えて一定量が保たれます。加齢、生活習慣の乱れ、血圧・血糖値・中性脂肪などの影響でこのバランスが崩れると、コレステロール値が高くなってしまいます。高血圧、高血糖、高トリグリセライド血症(中性脂肪が基準値より高い状態)は、どれもコレステロール値を高めるリスクとなります。
■LDL、HDLってなに?
LDL(悪玉コレステロール)は肝臓からコレステロールを運び出して、血管を通って全身の細胞に送り届けますが、血液中にLDLが増え過ぎると血管壁に入り込み、血管の内側にこぶ(プラーク)を作ります。プラークが破れると血栓ができて血管をふさぎ、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。本当の悪者はLDLそのものではなく、血液の中で増え過ぎたLDLなのです。
そこで活躍が期待されるのが、血液中の余分なコレステロールを肝臓に戻す働きを持つHDLです。HDLが豊富ならば、増え過ぎて血管壁にまで入り込んだ悪玉のLDLを回収することができます。このためHDLは善玉コレステロールと呼ばれます。HDL値が高いと心筋梗塞のリスクが下がり、低いと動脈硬化のリスクが高まるのです。
HDLは、喫煙、肥満、そして運動不足によって減るほか、中性脂肪が高くなると間接的にHDL値を低下させてしまうことが明らかになっています。さらに中性脂肪には、LDLを増やして動脈硬化を悪化させる性質があります。
LDLや中性脂肪が血液中に増えたり、高血圧や糖尿病などが刺激となって血管壁が傷つけられると、その部分の血管壁の中に脂肪物質がたまって硬く厚くなり、血行が悪くなって血管が詰まりやすくなります。これによって、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、末梢動脈疾患、大動脈瘤、大動脈解離などを起こすリスクが高まり、命が脅かされてしまいます。
寺本民夫(てらもと・たみお)先生
寺本内科・歯科クリニック内科院長。東京大学医学部卒業。専門は内分泌、代謝、動脈硬化など。帝京大学医学部学部長、日本内科学会理事長などを経て、2013年に、患者さんと語り合い良い関係を築いて治療する同クリニックを開業。