今回は、山王病院・整形外科部長の青木孝文(あおき・たかふみ)先生に、ひざの内側に起こる急な激痛「大腿骨内顆骨壊死(だいたいこつないかこつえし)症」についてお聞きしました。
大腿骨内顆骨壊死はどこに起こる?
骨壊死はなぜ起こる?
骨の中には小さな孔がたくさん開いていて、血管が通っている。血液とともに送られてくる栄養によって、骨細胞は生きることができている。しかし、内顆に骨折を起こすと、軟骨に近い部分に血液が送り込まれなくなり、骨細胞の壊死につながる。
主な原因
弱くなった骨に起こる小さな骨折など
普段以上の運動やひざのひねり
持病の治療に対するステロイド剤の長期服用
主な治療法
足底板の装着
痛み止めや骨粗鬆症の薬の服用
運動による筋肉強化
手術療法
大腿骨内顆骨壊死症は体重のかかる大腿骨の内側の顆部(内顆)という場所の一部に骨壊死が生じる病気です。
骨壊死とは、骨の細胞が死んでしまい、骨の再生が行われない状態のことです。
60歳以上の女性に多く発生し、骨が脆くなっているところに微少な骨折が起こることが原因なのではないかと推測されています。
大腿骨内顆骨壊死症の症状
・ひざの内側に急に激痛(足を下につけることができないくらいの痛み)が起こる
・体重をかける(立ち上がり、階段の上り下りなど)とひざの痛みが悪化する
・ひざに腫れが生じる
・夜間や安静時にも痛みを感じる
・片側に起きる
「急に走り出す」「階段を下りる」など、何気ない日常の動作をきっかけに、上のような症状を起こします。
ひざの痛みを訴える別の病気に、変形性膝関節症がありますが、痛みの現れ方が異なります。
変形性膝関節症は徐々に痛みが現れますが、大腿骨内顆骨壊死症は突然の激痛が特徴です。
症状が出たら、整形外科を受診することが大切です。
放置しておくと、壊死した骨が軟骨に悪影響を与えて、変形性膝関節症に進行することもあります。
X線では、早期の微小な骨折を捉えきれないので、早めにMRI検査など精密検査を受けることをおすすめします。
治療のポイントは患部に大きな力を加えないようにすること。
安静、足底板の使用、薬物療法、運動を試します。
歩くときは杖などを使用します。体重のコントロールも大切です。
足底板は外側を高くすることで、ひざの内側にかかる負荷を減らします。
保険適用範囲内で自分に合った足底板を作ることが可能です。
痛みが強い場合は、飲み薬、塗り薬、貼り薬などの消炎鎮痛剤を使用します。
骨粗鬆症の治療薬を処方することもあります。
下で紹介している運動も試してみてください。
これらの治療で痛みが改善しない場合は、手術を検討します。
大きく「人工関節の手術」「骨切り術」「自家骨軟骨移植術」の3つがあります。
それぞれ短所、長所がありますが、骨壊死の範囲や病気の進行段階によって決まります。
筋肉を鍛えてひざの痛みを改善
脚の横上げ運動
骨盤の横にある中殿筋を鍛える。中殿筋を鍛えると、骨盤が安定し、ひざへの負担が軽くなる。
(1)体と脚がまっすぐの状態で横向きに寝る
(2)下側の脚を軽く曲げる
(3)上側の脚を、伸ばしたままゆっくりと上げる(お尻の横に効いていると思う高さで止
(4)上げた状態で5秒間静止し、ゆっくりと下ろす
(5)左右それぞれ20回ずつ行う
※脚を高く上げ過ぎると腰が痛くなるので要注意。おへそが少し下向きになるように意識して、上半身が後ろに倒れないようにする。
脚上げ運動
太ももの前側にある大腿四頭筋を鍛える。大腿四頭筋を鍛えると、歩くときにひざにかかる負担を軽くできる。
(1)あおむけに寝て、片方のひざを軽く曲げる
(2)伸ばした方の脚をゆっくりと上げる(曲げた方の脚と同じ角度が目安)
(3)上げた状態で5秒間静止し、ゆっくりと下ろす
(4)左右それぞれ20回ずつ行う
※脚を上げるとき、できるだけかかとを遠くに押し出すようにする。脚を上げる高さが低い方が負荷が増す。座ったままでも可能。
取材・文/古谷玲子 イラスト/片岡圭子