厚生労働省の2019年「国民生活基礎調査」によれば、女性が訴える症状の第1位が肩こり。男性でも第2位です。つらい症状のときは、何らかの重大な異変が潜むことがあるので注意が必要。そこで今回は、千葉大学医学部附属病院 整形外科 准教授の落合信靖(おちあい・のぶやす)先生に、「肩の不調を予防する生活習慣や症状別治療法」についてお聞きしました。
【前回】女性が訴える症状の第1位!「肩こり」と「肩の違和感」セルフチェック
五十肩は自然に痛みが軽減されても、インピンジメント症候群や腱板断裂の痛みは、自然に治ることはないそうです。
むしろ、肩の違和感を放置することで、激しい痛みによって「洗濯物が干せない」「洋服を着替えるのが難しい」など、日常生活に支障が生じる人もいます。
「肩に違和感があるときには、肩こりや五十肩と思われがちですが、腱板断裂などさまざまな肩関節の故障もあります。自己判断はやめましょう。整形外科を受診して、原因に合わせた治療や対処を行うことが重要です」と落合先生。
腱板断裂は、腱板が切れてしまっている状態です。
症状にもよりますが、リハビリや痛みのコントロールを行い、それでも痛みが改善しないときには、断裂した腱板をぬい合わせる手術が適用になります。
ただし、長期間腱板断裂を放置していると、断裂した腱板の筋が変性し、手術でぬい合わせることが難しくなることもあるそうです。
一方、腱板にリン酸カルシウム結晶が沈着することで痛みが生じる肩石灰性腱炎は、体の外から衝撃波で石灰を砕く体外衝撃波療法も行われています。
肩が激しく痛んでも、必ずしも手術による治療が行われるわけではないので、受診して原因が判明したら、主治医と治療法をよく相談するとよいでしょう。
肩を守るには正しい姿勢&ストレッチ
では、加齢に伴い痛めがちな肩関節を守るには、どうすればよいのでしょうか。
「肩甲骨とその周辺の柔軟性を維持することで、ある程度の予防が可能です。仮に腱板断裂を起こしても、肩甲骨やその周辺が柔らかい方は、痛みなどの症状が出ないことが多いからです。そのためには正しい姿勢の維持やストレッチが役立ちます」
猫背の人は、インピンジメント症候群などを起こしやすいので注意が必要です。
また、運動習慣がないと、肩甲骨やその周辺を動かす範囲が狭くなり、筋肉の柔軟性が維持されにくくなります。
運動のし過ぎで腱板断裂を起こすこともありますが、動かさないことで腱板が劣化して断裂することも珍しくはないのです。
肩甲骨周りを柔らかくするストレッチを習慣化することが、予防につながります。
また、日頃から姿勢も正しましょう。
「ご自身の立ち姿を鏡で見ながら、背筋をまっすぐ伸ばすことを意識してみてください。姿勢がよいと、首、腰、脚への負荷も軽減され、頸椎症や腰痛、膝関節痛などの予防にもつながります。正しい姿勢を保つことは、肩だけでなく全身にもよい影響を与えます」と落合先生は話します。
肩が痛いのは年のせいと諦めず、適切な対処と日頃からの予防を意識した生活で、改善することを心がけましょう。
「肩こり」は「筋肉」が関係している?
腱板断裂は腱板が切れ、五十肩は関節の関節包の炎症が関わります。では、一般的な「肩こり」は、肩のどこに関係しているのでしょうか。実は、肩の関節というよりも、首から背中の僧帽筋や肩甲挙筋が硬くなり、血流が悪くなって筋肉疲労を起こすことが原因です。同じ姿勢でパソコンやスマホの操作を長時間続けていると、肩はもちろん首や背中にも痛みが走ることがあるでしょう。筋肉の柔軟性を維持していれば、肩こりを予防できます。肩周辺のストレッチを習慣化しましょう。
肩の不調を予防する生活習慣&症状別治療法
生活習慣
正しい姿勢を保つ、同じ姿勢を続けない
背筋を伸ばして、左右の肩の高さが同じになるように意識を。猫背は×。同じ姿勢の持続は肩こりになりやすいので、スマホの見過ぎも×。
「肩によい食べ物」はない!
肩関節によいと科学的に証明された食べ物は、残念ながらありません。ストレッチで肩周辺の筋肉の柔軟性を保つことが予防になります。
ストレッチ
1:肩甲骨
1.両ひじを曲げて、肩と平行になるように上げる。
2.上げた両ひじを、ゆっくりと背中方向に動かし5秒間止める。
3.ゆっくり元の位置(1の位置)に戻す。
※1~3を1セットとして朝晩5回ずつ行う。
2:背伸びのポーズ
1.両腕を両耳につけるように、まっすぐ上に上げる。
2.頭の上で両手を合わせ、ゆっくり左右に振り子のように5回、腕を振る。
※1~2を1セットとして朝晩5回ずつ行う。
症状別の治療法
五十肩
痛くなり始めの頃は鎮痛薬と安静が基本。痛みが落ち着いてから肩甲骨の位置を修正する運動を開始。治癒には個人差があり6カ月~2年程度。
インピンジメント症候群
薬で痛みを軽減しつつ、肩関節動作のリズム異常を治すリハビリが治療の中心となります。リズムを正常に戻すことが重要です。
腱板断裂
痛み止めの薬と肩の筋肉の動かし方を変えるリハビリが基本ですが、改善しないときは断裂をつなぐ手術、重症の場合は人工関節置換術が適用に。
肩石灰性腱炎
初期段階は痛みを取りながら経過観察。石灰が消えないときには体外衝撃波療法で改善する人が多いそうです。重症化の場合は手術適用も。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史