家庭裁判所に持ち込まれる相続問題は遺産総額5000万円以下が7割/法律のプロと相続を考える

家庭裁判所に持ち込まれる相続問題は遺産総額5000万円以下が7割/法律のプロと相続を考える pixta_28371724_S.jpg相続のお手伝いをしていて感じるのは、「相続」という出来事を自分事として考える方が少ないということです。何百人という相続人の方々とお話をしていると、相続に対する共通した3つの思い込みがあるようです。

そんな相続の現場で起きていること、考えなければならないことを、相続、遺言、家族信託支援を専門にする司法書士・青木郷が、実際に事務所で経験した事例も交えながら、全13回にわたって解説していきます。

第3回目の今回は、「相続に対する3つの思い込み」をご紹介します。

第2回目の記事はこちら→「発生確率100%のリスク「相続」とは」


思い込み1.自分はまだ若いから相続とは無関係

私が相続のお話をさせていただく世代は50代、60代の方が多いです。この世代の方々は親の相続について考えている世代です。

しかし、【自分自身の相続】について考えていることは稀です。

それは、「自分はまだ若いし元気。自分の親は今年ようやく80代。このくらいになるまで、自分も相続について考える必要はないだろう」と考えていることが多いためです。でも、いつどのようなタイミングで相続=死が訪れるかは本人も含めて誰も知りえません。まさに神のみぞ知ることと言えます。

家庭裁判所に持ち込まれる相続問題は遺産総額5000万円以下が7割/法律のプロと相続を考える pixta_711662_S.jpg以前、会社を立ち上げたばかりの40代の社長が、顧客のもとへ移動している最中に事故で突然亡くなるという出来事がありました。自分亡きあとのことを何も整理していなかったため、従業員も家族もある日を境に路頭に迷うことになりました。

この社長自身、まさかこんなに早く自分が死ぬとは思っていなかったはずです。でも現実に亡くなってしまった。人である以上、若くても、元気でも、相続について考えておく必要があります。

思い込み2.うちはお金持ちではないから相続とは無関係

相続のお話をした時、「相続はお金持ちが考えることでしょう? うちは小さな自宅と少しの預金しかないので、あまり関係ないです」と拒絶されることが多々あります。

ここで質問です。

相続人同士の話し合いがまとまらず、家庭裁判所に持ち込まれる事件(要するに争いになってしまった相続)は、遺産総額いくらくらいの家族が多いかご存知でしょうか。

実は、遺産総額5,000万円以下の家庭が全体の70%を占めています。5,000万円というと、都内に小さな自宅を持ち、退職金や年金の多少の蓄えがあるくらいの家です。まさに一般家庭といえるでしょう。

家庭裁判所に持ち込まれる相続問題は遺産総額5000万円以下が7割/法律のプロと相続を考える pixta_28993658_S.jpgこのような家庭で相続の話し合いがまとまらず、争いになっていることが多いのです。相続がお金持ちだけの問題ではないということが、お分かりになるかと思います。

思い込み3.家族全員仲がいいので相続問題は起こらない

最後に言われることが、「うちの家は家族全員本当に仲がいいので、相続でもめるということはあり得ません」というものです。

家族の仲がいいことと、相続問題とは密接に関わっています。

これは常日頃、交流しているというレベルで仲がいいということを指すものではありません。お互いに親や自分の家族について深い情報共有ができているか、不公平感・疎外感を感じるような接し方をしていないかということを指します。

具体的には、親の介護について子供たちで情報共有しているか、子供たちのうちの一部が全面的に介護を受け持ち、そのことを他の子供たちが知らない、知っていたとしても協力していないというような、明らかな不平等感を感じるような関係が継続していた場合、たとえ表面上笑いあって交流をしていたとしても、相続開始時点で積もりに積もった不平等感が爆発する可能性は非常に高いです。

家庭裁判所に持ち込まれる相続問題は遺産総額5000万円以下が7割/法律のプロと相続を考える pixta_11655639_S.jpg親側は子供側に対して、どのような財産分けをしようとしているかという情報を提供しているでしょうか。また相続に対する考え方、子供たちに対して日ごろ感じていることを伝えているでしょうか。さらに、ご自身の相続に対する考え方と子供たちの相続に対する考え方は一致しているでしょうか。介護、相続という話しにくい話題をざっくばらんに伝えられる関係を築いているでしょうか。

このような関係を築くことはとても時間がかかりますが、どのような法律的、税務的な対策を考えるより大切なことです。風通しの良い関係を築いている家族が法律的、税務的な対策まで考えた場合、最良の相続になるでしょう。

相続は、年齢や財産の多寡を問わず、すべての人に考えてもらう必要があるものです。
そして、常日頃から一歩踏み込んだ、少し聞きづらい、話しにくいことをテーマに話し合えるコミュニケーションをとることを意識してみてください。

家庭裁判所に持ち込まれる相続問題は遺産総額5000万円以下が7割/法律のプロと相続を考える プロフィール写真.jpg青木郷(あおき・ごう)

司法書士・行政書士・家族信託専門士・家族信託コーディネーター。開業当初より、相続、遺言、家族信託に特化した業務展開を行ってきており家族信託組成支援を含む相続・承継の支援を行った家族は300世帯を超える。複雑で難解な相続手続きを明快に整理したうえで支援、またそのご家族に合った相続・承継対策を一緒に作り上げている。遺言書作成や家族信託組成支援については、お客様の希望や想いを丁寧にヒアリングしたうえで、税理士、不動産コンサルタント等と連携して支援を行っている。共著に『ファイナンシャルプランナーのための相続⼊⾨』(近代セールス社)、執筆・監修に『わかさ11⽉号 保存版別冊付録【⽼い⽀度⼿帳】』(わかさ出版)がある。

 

この記事に関連する「ライフプラン」のキーワード

PAGE TOP