「セルフ・ネグレクト」という言葉をご存じですか? 「自己放任」と訳され、2000年ごろから日本での研究が始まりました。生活において当然行うべき行為を自分の意思もしくは行う能力がないことから放置し、身を危険にさらす状態のことを指します。では、どうしてセルフ・ネグレクトに陥るのでしょう。予防法はあるのでしょうか。そこで、セルフ・ネグレクトについて研究されている東邦大学看護学部教授の岸 恵美子先生にお話を伺いました。
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ごみ屋敷になってしまう主な理由と対策とは?
「ごみ屋敷」はセルフ・ネグレクトの兆候です。度々ニュースで目にして、"変わった人"というイメージを持つ人も多いかと思います。しかし、これは誰にでも起こり得る問題です。
60代以上でごみ屋敷に陥る主な理由は次の通りです。
1.物理的に捨てられない
年齢とともに体が思うように動かなくなり、ごみ捨て場にごみを持っていくことが困難になり、ごみがたまる。家族に連絡するのも気が引け、次第に部屋が物で埋め尽くされていきます。
2.要・不要の判断ができない
菓子の空き箱、洋服や小物が増えてきても、物のない時代に育った世代では、捨てることができない方を多く見かけます。
習慣から何でも取っておくのですが、年齢とともにどれが必要でどれが不要かの判断がつけられなくなってしまうのです。
3.分別の判断がつかない
最近はごみの分別も細分化されました。可燃物、不燃物、資源のどれに当たるのか判断ができなかったり、分別が面倒で放置の末、ごみが山になってしまうのです。業者に処理を頼めば費用がかかるので、家族に相談できずごみ屋敷に...。
ごみが増えることは不衛生である上、転倒のリスクも増して安全が脅かされます。周囲にそのような人がいるなら、一緒に片付け方を考えてみてください。
相手の目線に立ち、動きやすさ取りやすさを考えて置き場所を決めます。「早く捨てて」「汚いから片付けて」などの否定的な言葉は厳禁。「転ぶかもと心配」「必要な物を取りやすくしましょう」などと相手を尊重しましょう。
また要・不要を勝手に判断して捨ててはいけません。一緒に一つずつ確認しながら、捨てるもの捨てないものを分けていくことで安心感が生まれます。捨ててよいと言われても「やはり必要だった」となることもあるので、すぐ捨てず少し様子を見て確認してから捨てると良いでしょう。
困ったときは、地域包括支援センターに相談することもできます。
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取材・文/中沢文子
岸 恵美子(きし・えみこ)先生
1960年東京都生まれ。看護師、保健師。東邦大学看護学部教授。自治体の保健師として16年間勤務していた経験から、生活に寄り添い、その人らしい生活が送れるように支援することを重視し、主に高齢者虐待、セルフ・ネグレクト、孤立死を研究。