「まずい、まずい、まずい。このまま死ぬかも......」ついに来た、がんの痛み/僕は、死なない。

「病気の名前は、肺がんです」。医師からの突然の告知。しかも一番深刻なステージ4で、抗がん剤治療をしても1年生存率は約30%だった...。2016年9月、50歳でがんの告知を受けた刀根 健さん。残酷な現実を突きつけられても「絶対に生き残る」と決意し、あらゆる治療法を試して必死で生きようとする姿に...感動と賛否が巻き起こった話題の著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)より抜粋。過去の掲載で大きな反響があった本連載を、今回特別に再掲載します。

※本記事は刀根 健著の書籍『僕は、死なない。』から一部抜粋・編集しました。 
※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。

【前回】「僕も死んだら、こうなるのか」愛犬の死に直面。肺がんステージ4の僕は...

「まずい、まずい、まずい。このまま死ぬかも......」ついに来た、がんの痛み/僕は、死なない。 pixta_49452190_S.jpg

11月28日のことだった。

午後3時頃から左胸がズキズキと痛み出した。

原発のがんがあるところだ。

すぐにカラーブリージングを行なう。

痛みは治まり、ほっとした。

その頃、毎晩寝汗をびっしょりかくようになっていた。

一晩でパジャマを3回替えたこともあった。

その日もぐっしょりと寝汗をかいて目を覚ましたときだった。

左胸のがんがある場所がズキズキと痛み始めた。

痛い......。

痛みはすぐに強くなってきた。

あまりの痛みに息が吸えない。

ううっ息が......。

まずい、どうなるんだろう。

まずい、まずい、まずい。

この痛みはおそらく、がんの痛みだ。

がんがついに胸膜に達したのか?

掛川医師の言った通りになったのか?

がんがどんどん広がっているのか?

やばい、やばい、やばい。

「寝たきりになります」

掛川医師の渋い顔が浮かぶ。

うっ、うるせえ!

痛みはどんどん強くなり、刺激がズンズンと激しくなる。

いててててっ......痛てぇーっ!

若い頃、ボクシングの練習でパンチを顔面にくらって意識が飛んだときも、こんなには痛くなかった。

ボディブローで肋骨をへし折られたときも、これほどじゃなかった。

まるで錆だらけの五寸釘を1秒おきに打ち込まれているようだ。

1回ぐらいなら我慢もできるかもしれない。

しかし......1秒おきにずーっと刺され続けるんじゃ、たまらん!

グサ、グサ、グサ。

痛い、痛い、痛い!

一定のリズムで五寸釘が打ち込まれる。

グサ、グサ、グサ。

ううっ、このまま死ぬのか......ちょっ......ちょっと、待ってくれ!

グサ、グサ、グサ。

痛い、痛い、痛い!!!

グサ、グサ、グサグサ、グサグサ......。

し......死ぬぅ......。

死ぬときってこんな感じなのか?

僕は生まれて初めて〝痛み〟で死を意識した。

このまま死ぬかも......どうする?

救急車呼ぶ?

でも、病院でなんて言うんだ?

「僕、がんです。ステージ4です」

「はあ、それはお気の毒に」

だけじゃん。

どうしようもない。

痛みはどんどん強くなる。

息が、息ができねえ......。

呼吸を浅くするんだ。

深く胸を動かすと痛みが激しくなる。

なるべく胸を動かさないように、浅く、小さく空気を吸い込むんだ。

浅い呼吸を素早くするんだ。

そうやって酸素を取り込むんだ。

とにかく現状に冷静に対処するんだ。

はぁはぁはぁはぁ、はぁはぁはぁはぁ。

呼吸に意識を集中する。

しかしグサグサという刺すような痛みは変わらない。

うぐぐっ、い、痛ってぇー!

脂汗にまみれた額を手でぬぐったとき、急に思いついた。

あっ!そうだ、そうだ、薬だ!

薬を飲んでみよう!

がんが見つかってから今まで、食事指導を受けているドクターの指示で、合成的な化学物質は身体に入れないようにしてきた。

それが頭の中にこびりついていたのか、薬のことはすっかり忘れていた。

ドクターの顔が目に浮かんだ。

「薬は絶対飲んではいけません、風邪薬もやめてください。それは逆に命取りです」

じゃああんたはこの痛みに耐えられるのか?

今はそんなこと言ってる場合じゃない。

もう耐えられないんだ。

ふらふらと布団を抜け出し、居間の薬箱に向かった。

妻がそこにいなかったのは好都合だった。

彼女に苦しんでいる姿を見せたくなかった。

「おおっ、あった!」

効くかどうかはわからない。

でも、効いてほしい、頼む、効いてくれー!!

午前1時15分、急いで水と一緒に口に放り込む。

飲んでから約20分、だんだんと痛みが薄らいできた。

痛みの質が、グサグサからズキズキに。

おおーっ、効いてきたー。

痛みは次第に、ズキズキからチクチクへと変わっていった。

午前2時20分、痛みはほとんどなくなった。

チクチクも消えた。

はぁー......た、助かった。

僕は自然と両手を合わせた。

この薬を開発してくれた人たち、ありがとう。

この薬を作ってくれた会社、ありがとう。

家に買い置きしてくれた妻よ、ありがとう。

助かった。

ホントに死ぬかと思った。

しかし、今は薬で痛みを感じなくなってはいるが、薬の効果が切れたらまた〝あれ〟が始まるんだろうか?

これからずーっと、痛み止めを飲み続けることになるのか?

毎日毎日、永遠に飲み続けることになるのか?

マジで?

いやでも、今それを考えても仕方ない。

とりあえず、寝よう。

僕はぐっしょりと汗ばんだパジャマを着替え、もう一度布団にもぐりこんだ。

翌日、1週間ぶりに会社に出勤した。

電車の中で昨晩の激痛を思い出した。

昨日は最悪だったな。

昨晩にはできなかった深呼吸を、思いっきりしてみる。

胸が大きく動く。

新鮮な空気が肺に入ってくる。

痛くない。

全然痛くない。

ああ、なんて幸せなんだろう。

痛みなく空気が吸えるって、なんて幸せなんだろう。

電車の窓から、太陽の光が降り注いでいた。

僕の顔に、僕の手に、暖かいエネルギーがじわじわとしみ込んでくる。

なんて暖かいんだろう、なんて綺麗なんだろう、なんて美しいんだろう。

気づかなかった。

世界はこんなにキラキラしてたんだ。

息するだけでこんなに幸せなんだ。

生きてるだけで充分じゃないか。

息をするだけでこんなにも嬉しいんだ。

ほら、人生は喜びに満ちているじゃないか。

生きている、それだけでも『奇跡』なんだ。

生きてるってこと、それだけで、素晴らしいじゃないか。

僕はもう働けなくなった。

いつ始まるかわからない、こんな痛みと不安を抱えて働くことはできなかった。

ついに仕事を頑張れなくなった。

僕は会社を完全に休職した。

 

刀根 健(とね・たけし)

1966年、千葉県出身。東京電機大学理工学部卒業後、大手商社を経て、教育系企業に。2016年9月1日に肺がん(ステージ4)が発覚。翌年6月に新たに脳転移が見つかるなど絶望的な状況の中で、ある神秘的な体験し、1カ月の入院を経て奇跡的に回復。ほかの著書に、人生に迷うすべての現代人におくる人生寓話『さとりをひらいた犬 ほんとうの自分に出会う物語』がある。オンラインサロン「みんな、死なない。」および刀根健公式ブログ「Being Sea」を展開中。

この記事は『僕は、死なない。 全身末期がんから生還してわかった人生に奇跡を起こすサレンダーの法則』(刀根 健/SBクリエイティブ)からの抜粋です。

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