森永卓郎さんが語る「食料危機に日本はどう対応する」/人生を楽しむ経済学

定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、「食の安全保障を考える」についてお聞きしました。

【前回】「定年後の悠々自適は許さない」森永卓郎さんが考える「高齢者の働き方」

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食料危機に日本はどう対応する?

万が一の災害に備えて、我が家では水と食料をある程度備蓄しています。

ただ、冷静に考えると、備蓄で食いつなげるのは数週間で、1カ月はとてももちません。

そんななか、とてもショッキングな本に出合いました。

鈴木宣弘東京大学教授が書いた『世界で最初に飢えるのは日本』という本です。

この本の冒頭では、米国のラトガース大学のこんな研究結果が紹介されています。

「局地的な核戦争が勃発した場合、直接的な被爆による死者は2700万人だが、『核の冬』による食料生産の減少と物流停止による2年後の餓死者数は、世界で2.55億人、うち日本が7200万人となる」死者数が日本に集中する理由は、37%という圧倒的に低い日本の食料自給率のためです。

ちなみに核の冬というのは、核戦争による大火災で生じる大量の煤煙や粉塵によって太陽光が遮られるため、地球の気温が大幅に下がる現象を指します。

つまり、日本が戦場にならなくても、どこかの国同士で核戦争になったら、日本人の6割が飢え死にしてしまうという恐ろしい推計なのです。

ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の動きをみていると、いつ核兵器が使われても不思議ではない状況になっています。

また、核戦争までいかなくても、輸入食料の価格高騰で、厳しい物価高に直面してしまうというのは、いままさに私たちが経験していることです。

そうした事態に、私たちはどのように対処したらよいのでしょうか。

真っ先に思い浮かぶ対処法は、食料の備蓄を積み増すことです。

ただ、備蓄をするのには、保管場所や保管費用も必要ですし、何より食料品は傷むので、何年分もの食料を全て備蓄するのは、非現実的です。

そうなると、餓死から逃れるためには、食料自給率を上げるしか方法がありません。

コメをもっと食べることのメリットは?

それでは、どうしたら食料自給率が上がるのでしょうか。

JAグループは、最近、国消国産というコンセプトを前面に掲げています。

国民が消費したいと思う農産物を生産していこうという、一種の消費者志向です。

ただ、冒頭に紹介した鈴木宣弘教授の処方箋は、違います。

コメを食べようというのです。

これはいますぐ役立つ合理的な提案だと私は思います。

例えば、2022年10月の消費者物価指数が、前年比でどうなっているのかをみると、パンは13.7%、麺類は10.7%の値上がりに対して、コメは1.8%の値下がりとなっているのです。

なぜ、こんなことが起きているのかといえば、コメは国産だからです。

国民が食べる食料を自国で生産していれば、海外要因に振り回されずに済むのです。

つまり、日本はどの穀物を作るべきか。

その答えがコメなのです。

私自身は3年前に一度だけコメ作りに参加したことがあります。

そのときに分かったことは、野菜と比べると、コメは手がかからないということです。

もちろん、田植えや夏の草取り、稲刈りといったときには手がかかるのですが、野菜や果物のように毎日手をかける必要はありません。

だからサラリーマンをしながらコメ作りをする兼業農家がたくさんいるのです。

しかも鈴木教授によると、コメは連作障害がない奇跡の穀物なのです。

ただ、野菜と違って、コメは田んぼという生産基盤が必要で、すぐに田んぼを作ることはできません。

ところが、幸いなことに日本は千年以上かけて、田んぼを整備してきたので、日本中に十分な田んぼがあります。

それが減反政策のなかで、使われていないのが現状なのです。

全てが休耕田ではありませんが、いま日本には耕作放棄地が、富山県の面積に匹敵する42万3千ヘクタールもあります。

この耕作放棄地を再生することこそが、食料安全保障のための最大の課題です。

ただ、そうは言っても、コメの需要がどんどん落ち込んでいるなかで、耕作面積を増やしても、コメが余るだけです。

欧米は、農家に莫大な補助金を与えることで、余った穀物を海外に大量輸出したり、家畜の飼料として活用してきました。

その結果が高い食料自給率に結びついているのです。

日本でも同じことはできますが、財政状況が厳しいなか、農家への補助金を大幅に増やすことは、なかなか困難だと思われます。

だからこそ、残された方法は、国民が普段からコメを食べることしかないのではないかと思うのです。

食料品価格が高騰しているいまこそ、コメを中心にした和食に変えるチャンスではないでしょうか。

世界では、ヘルシーだということで、少し前から和食ブームが起きていますが、日本だけが逆行しているというのは、おかしな話です。

正直言うと、私はダイエットのために、この数年コメをまったく食べてこなかったのですが、この1年ほどで、コメを食べるように食生活を変えました。

その経験から言うと、どんぶり飯のような食べ方をしない限り、コメを食べると太るというのは、神話だったと思います。

安くて、ヘルシーで、食の安全保障にもつながるコメはもっと評価されるべきでしょう。

 

森永卓郎(もりなが・たくろう)

1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著に、『長生き地獄にならないための 老後のお金大全』(KADOKAWA)がある。

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『なぜ日本経済は後手に回るのか』

(森永 卓郎 森永 康平/KADOKAWA)

新型コロナウイルス感染症によって生じた日本経済の失速。その原因は長年続いている「官僚主義と東京中心主義」にあると、森永さんは分析します。では今後どうすれば感染拡大を抑え、経済的苦境を脱することができるのか――。豊富な統計やデータを基に導き出された、未来への提言が記された一冊です。

この記事は『毎日が発見』2023年1月号に掲載の情報です。

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