安倍政権の容赦ない「年金カット」が"隠れ貧困層"を直撃/介護破産(3)

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介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。実は介護破産の原因には、単に資産の多寡だけでなく、介護に関する「情報量」も大きく関わってくるのです。
本書「介護破産」で、介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法を学んでいきましょう。

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安倍政権の容赦ない「年金カット」

国は年金制度を維持するために、制度改正を何度も行なっている。

2004年に、自民・公明連立政権下で「年金100年安心プラン」と題し、今後100年間、年金の受取額は現役時代の収入に対して最低50%を保証するために、年金制疫の改革が行なわれた。その―つが、「マクロ経済スライド」だ。理解を深めるために、ここで年金について、もう一度、おさらいしよう。

そもそも、年金額は物価や賃金の変動に応じて、毎年改定されることになっている。物価が上昇すれば年金額も上がり、下降すれば下がる「物価スライド」が導入されている。ところが、「高齢者の生活の配慮」を理由に、2000年度から、当時の自公政権が物価スライドを凍結させた。物価の下降に合わせて年金額を減額すべきところを据え置いたのだ。

このため、本来もらうべき年金額よりも多くもらっていた受給者は適正額に戻すために、2013年10月から1%、翌14年4月からさらに1%減額され、2015年4月にも0.5%下げられた。「もらいすぎ」が解消されれば、物価や賃金が上昇すると、その分年金額も上がることになる。その伸びを抑える役割を果たすのが、「マクロ経済スライド」だ。

2015年度、厚生年金を受け取る夫婦二人のモデル世帯は、前年度より4453円プラスの月22万3519円もらえるはずだった。ところが実際の受給額は月22万1507円。マクロ経済スライドにより、2012円減った。この額をみる限りでは、大卒新入社員の初任給よりも多いので「もらいすぎ」というのもわかるが、全員が「もらいすぎ」ではない。この額はあくまでもモデルであり、年金受給者3991万人のうち、約4分の1が生活保護の基準以下で生活する"隠れ貧困層" といわれる。自営業で国民年金にしか加入していなかった人や、フサエさんのように長年働き続けていても低賃金だったために、支払われる年金額が少なかった人もいる。

そんな"隠れ貧困層"を直撃するのは、2016年末の臨時国会で成立した「年金カット法案」だ。現在導入されている「マクロ経済スライド」は、デフレ下では発動されないため、将来的な物価上昇の見通しが立たない現状では、年金支給額の抑制が厳しい。過去10年間でマクロ経済スライドが発動されたのは、先ほど取り上げた2015年度の1回のみだった。そこで、デフレ下でも年金の支給額を抑制できるように、「物価と賃金の低いほうにつねに合わせて年金を下げる」(図1ー1)という仕組みを盛り込んだ改正国民年金法が2021年4月から実施される。

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2016年12月下旬、厚生労働省が公表した試算によると、物価上昇率が1.2%、経済成長率が0.4%のケースでは、高齢者への年金支給額は新ルールを導入しない場合と比べて2026年度から2043年度まで0.6%減る。民進党が公表した試算では、国民年金は年間4万円、厚生年金は同14万円も減るという恐ろしい結果が出ている。今、ぎりぎりで生活している高齢者たちは、生活が立ち行かなくなるのは目に見えている。

 

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結城 康博(ゆうき・やすひろ)
淑徳大学総合福祉学部教授。1969年生まれ。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所への勤務経験がある。おもな著書に『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から 』(岩波新書)、『孤独死のリアル』(講談社現代新書)、『介護入門 親の老後にいくらかかるか? 』(ちくま新書)など。

村田くみ(むらた・くみ)
ジャーナリスト。1969年生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社。「サンデー毎日」編集部所属。2011年よりフリーに。2016年1月一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS)のアドバイザーに就任。おもな著書に『書き込み式! 親の入院・介護・亡くなった時に備えておく情報ノート』(翔泳社)、『おひとりさま介護』(河出書房新社)など。

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『介護破産』
(結城 康博、村田 くみ/ KADOKAWA)

長寿は「悪夢」なのか!? 介護によって始まる老後貧困の衝撃!
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