「50歳での末期がん宣告」から奇跡の生還を遂げた、刀根健さん。その壮絶な体験がつづられた『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)の連載配信が大きな反響を呼んだため、その続編の配信が決定しました! 末期がんから回復を果たす一方、治療で貯金を使い果たした刀根さんに、今度は「会社からの突然の退職勧告」などの厳しい試練が...。人生を巡る新たな「魂の物語」をお届けします。
手放すということ
その日の夜だった。
僕の携帯がメールを受信した。
それは先日訪ねて原稿をチェックした出版社からだった。
メールの内容はこうだった。
「出版に対する方向性の違いがあるようです。今回の出版は残念ながら"なし"ということにしましょう。今までお疲れ様でした。これからもご体調にはお気をつけください」
...。
出版が、没になった...。
まただよ...
屋根に上って、はしごを外される...。
あの苦しかった6ヶ月は、一体何だったんだろう?
再発しそうになってまで、必死に書き上げたのに...。
そのとき、ふと年末に姉に言われたことを思い出した。
「なんでそんなおんなじことを、何度も繰り返すかってことよ」
「いつもそう。最後は『裏切られた』『許せない』って叫ぶの。どうしてそんなに繰り返すんだろう?」
「もしかすると、いや、たぶん、まだまだそこから学ぶことがあるってことなのよ」
学ぶ...
何を?
そう...
きっとそうだ!
手放せ!
手放せ!
手放せ!
"自分"が苦労して作り上げたものだからこそ、"手放す"んだよ!
そう、昼間、自分で言っていたことを思い出せ!
"僕"はしがみつく
"僕"は恐れる
"僕"は怒る
"僕"は叫ぶ
「僕は"被害者"だ」
「僕は"犠牲者"だ」
「僕は"不運"だ」
「僕は"かわいそうだ"」
そう...
全ての流れを滞らせていたのは、他でもない"僕"だったんだ。
自分の執着を手放すんだ!
自分の不安を手放すんだ!
自分の恐れを手放すんだ!
明け渡すとき、"僕"は消える。
何が何に、何を明け渡すのかって?
"僕"が"宇宙という全体"に"僕自身"を明け渡すっていうこと。
サレンダー...信頼。
目の前に起こったことを、考えずに、全信頼、100%受け入れる。
そこに"僕"は存在しない。
"僕"は、消えていなくなる。
そこには絶対的な信頼、絶対的な一体感と安心しか存在しない。
だからこそ、あとの展開は"宇宙にお任せ"状態になる。
手放すこと...を学ぶこと。
そうか、そういうことだったのか...。
突然の退職、本の出版が没になる、こういう出来事は全て僕の魂が"サレンダー"...つまり"僕"を手放すことを学ばせるため用意したイベントだったんだ...。
僕は、本の出版を完全に"手放し"た。
僕は、退職に関してのモヤモヤした気持ちも、全て"手放し"た。
そう、僕は"僕"を手放した。
そのとき、もう「被害者だ」「犠牲者だ」と叫んでいた"僕"は消え去っていた。
もう前の会社や、今回の出版社や編集者に対する「裏切られ感」を感じることはなかった。
それは全体から見ると、小さな"手放し"だったかもしれない。
でも、そこには東大病院で感じたあの『スッキリとした心地のよい空間』が、広がっていた。
【次のエピソード】「きっとうまくいきますよ」再び動き始めた、ぼくの「夢」。/続・僕は、死なない。(31)
【最初から読む】:「肺がんです。ステージ4の」50歳の僕への...あまりに生々しい「宣告」/僕は、死なない。(1)
50歳で突然「肺がん、ステージ4」を宣告された著者。1年生存率は約30%という状況から、ひたすらポジティブに、時にくじけそうになりながらも、もがき続ける姿をつづった実話。がんが教えてくれたこととして当時を振り返る第2部も必読です。