<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:61
プロフィール:地方都市で公務員をしている61歳の男性です。娘(28歳)が大学に進んで1人暮らしを始めた時は心配したものです。
私の長女は、現在では念願の英語教師となり、関東圏の中学校で勤務しています。
この話は、そんな娘がまだ学生だった頃のこと。
教員を目指す以上は大学進学は必須でしたが、地元が田舎町ゆえ近くに適切な大学はありません。
結局、家から片道1時間半もかかる大学を受験し、合格することができました。
「え? 家から通うんじゃないのか?」
「冗談でしょ。毎日往復で3時間以上もかかるのよ、時間がもったいないよ」
こんなやり取りを経て、娘は1人暮らしを決めてしまいました。
大学の近くでアパートを探す娘が心配で、私は放っておけませんでした。
「まだ未成年(当時18歳)なんだから、ここは俺に任せておけ。いいところを見つけてやるよ」
「いや、もう大学生だからね。自分でやらせてよ」
そう返され、実際、娘は自分で手頃な物件を見つけてきました。
「じゃあ、契約は俺が行って...」
「もう済ませてきた。これにサインだけお願いしまーす」
指し示されたのは、契約書の連帯保証人の欄でした。
実際、これ以外の手続きは何もさせてもらえませんでした。
まあ、家賃などはこちら持ちだったんですがね。
「家電とかは?」
「大学の特設コーナーで一揃い買えるキャンペーンやってたから、そこで決めてきた」
こちらも手際よく済ませてきた様子。
「やればできるもんだよね、お父さんの助けはいらないや」
鼻息荒い娘に「でも家電の支払いは頼るんだね」とは言えませんでした。
その後、娘は転居手続きなどを済ませ、バイト先を決め、免許を取るからと自動車学校の宿泊講習の契約をし、「ここにハンコだけ、お願い」と、そのローン契約の保証人だけ頼んできました。
「ローンで返せるのか?」
「バイト代を当てれば大丈夫。ちゃんと考えてるから」
自信たっぷりに言い、大学に入ってからも私にはほとんど連絡なし。
「全然問題なし。心配し過ぎ。友だちと約束あるから、切るよ」と、こちらから電話すると軽くいなされる始末でした。
そんななんとなく寂しい日々を過ごして、初めての夏休みが近づいた7月、珍しく娘のほうから不安そうな声で電話がありました。
「あのさ...どうしたらいいか、分かんなくて...」
事情を聞くと、新聞の勧誘によく分からないまま返答していたら、いきなり毎日3紙が届くようになり、最近になって月に1万円を超える請求が来たというのです。
「最初の月はサービスって言ってたはずなんだけど...新聞屋さんに電話したら、契約では少なくとも1年は継続することになってますから、って言われちゃって」
慌てて娘のところに出向き、詳しく聞くと契約書も申込書もないとのこと。
すぐに消費者生活センターに相談したところ、やはり契約書も申込みもないということで迅速な対応をしてくれて、ほどなく新聞の配達は止まりました。
「ああ、驚いたよぉ...やっぱり気をつけないと怖いことになるんだねえ」
娘は事なきを得て、ホッとした様子でした。
「どうだ、まだすべて1人で、ってわけにはいかないだろ?」
「うん、まだしばらくはお世話になりますね、お父様」
久々の父親気分で諭すと、殊勝な返事が返ってきました。
大事に至らなかったこともさることながら、まだまだ娘の世話を焼かせてもらえそうだと、ホッとした思い出です。
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