「50代の男性です。中途採用で入社した期待値が高めのAさん。本部からお墨付きの人材として評価されていたのですが、徐々に良くない噂が広まっていったのです...」
■新店の責任者に任命されたのは、誰もが認める人格者だった
私がまだ40歳だった12年前、働いていたアパレルのブランドが拡大展開することになり、隣県の新しい商業施設への出店が決まりました。
そこの責任者が誰になるかが気になっていたところ、既存スタッフと中途採用の両方から選んだ結果、新しく応募してきたAさん(男性、30歳前後)に白羽の矢が立ちました。
私は責任者として選ばれなかったことに多少残念な気持ちもありましたが、Aさんに会う機会があったので話してみたところ、言葉遣いも丁寧で気遣いにも長けた好人物で、会社の選択は正しかったのだと納得しました。
彼なら安心だと思っていたのですが、新店がオープンしてから3カ月後、突如私が新店の責任者代行として任命されたのです。
中途半端なタイミングだったので不思議に思いましたが、上司からの説明ではAさん以外のスタッフが素人ばかりで指導が大変なので、そこをサポートしてほしいとのことでした。
新店への赴任まで2週間もなかったので、新居の契約や引越しの準備などを急いで済ませ、気合を入れて新店に出勤しました。
しかし、指導が大変なはずの部下は全員素直な性格のスタッフばかりで、とても拍子抜けしたスタートになりました。
そこでAさんに話を聞いてみたのですが、部下は全員外面が良いけれど、自分が見ていないところでは態度が悪くさぼってばかりだということ。
あまりにも私が受けた印象と異なっているので、Aさんの話と私が受けた印象、どちらを信じるべきか分からないまま職場に立つ形になりました。
■人格者と思われたAの正体...実は詐欺師並の嘘つきだった
しかしその違和感の理由が判明したのは、新店のスタッフからの相談がきっかけでした。
どうやら人格的に優れていたように見えたAさんは、口を開けば嘘ばかりを言う信用ならない人物だったのです。
Aさんは店の商品である服の支払いをせずに私物化して、さらに既婚者であるスタッフの女性と付き合い始め、別の店の女性にもちょっかいを出していることが、数名のスタッフの証言で明らかになったのです。
私が中途半端なタイミングで転勤になった理由が、ようやく腑に落ちました。
きっと、本社もAさんとスタッフのどちらが嘘をついているか判断できなかったため、私に実態を調査をさせるのが目的だったようです。
それから慎重に裏どりをしていくと、スタッフの証言通り悪事を働いていることが判明したため、証拠を固めた後、Aさんと話し合いの機会を持つことにしました。
仕事を終えて、Aさんを個室のある飲食店に誘い、タイミングを計ってこれまでの悪事について証拠を提示しながら追及したのです。
さすがに逃げも隠れもできない状況なので謝罪するのかと思いきや、口元に笑みを浮かべた後に芝居じみた拍手をした時には、一瞬何が起こったのか理解できませんでした。
私の話を聞いて、まったく認めることもなく、「おもしろい創作話を聞かせてもらったので、楽しい夜が過ごせた」と言い始めたのです。
そして、去り際におもしろい話を聞かせてもらったお礼に食事の代金は驕らせてもらうと言い、レジに向かって支払いを済ませた後、颯爽と去っていきました。
これまでの人生でこんな人間に会ったことがなかったので、根っからの詐欺師は人間の芯の部分から作りが違うことを実感させられた、ある意味貴重な経験でした。
その後も自分の過ちを認めることはなかったのですが、問題行動が上層部の耳に届き、懲戒解雇の宣告のために本社に呼び出されました。
Aさんはその際も「誤解を各方面に与えた罪滅ぼし」と称し、解雇の告知をされる前に自ら「退職届」を提出して堂々と去っていきました。
最後まで自分を貫き通すことだけはできたようです。
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