これは今から約10年程前、脱サラして居酒屋を始めた大将とその妻である女将に起こった出来事です。
現在の私は離婚して一人暮らし。
近くに住む孫たちと楽しい日々を過ごしております。
【前回】離婚届を突き付ければ旦那だって少しは慌てるはず!と思っていた私が馬鹿でした...
当然のように忙しかった土曜日の居酒屋の後片付けを終えると、もう辺りは白々と夜が明けようとしていました。
「家を売れ!」
店からの帰り際、出入り口の引き戸の前で振り返った私は旦那に向かってそう叫んでいました。
引き戸一枚隔てた歩道では日曜の早朝だからか、人通りもまばらでした。
これが平日の朝ならばもっと人通りが多かった事でしょう。
店の前を通っていた人に聞かれたんじゃないかなと思う程の大声でした。
暗い店内でテーブルに座っていた旦那は口をモゴモゴさせながら言いました。
「不動産屋の知り合いってあの人だけだしなぁ。あそこ賃貸専門だし」
「別にお客さんの中から不動産屋さんを探すことないでしょ? どこか他にもあてがあるんでしょ?」
私がそう言うと、旦那はそれっきり黙ってしまいました。
そしていつもはすぐにやらない片付けを「あっそうだ、あれもやらなくちゃ」と白々しくやり始めました。
『また逃げやがったな、このヤロウ!』
そう心で思いながらも、これ以上話してもらちがあかないので私は帰る事にしました。
それから数日後。
「家の査定どうだった?」
閉店後の店内でおおかたの片付けを終えた私達はテーブルに向かい合わせで座っていました。
「銀行のローンの残高調べてみたら○○○円位だったよ」
質問の答えとは違いますが、旦那はそう答えました。
○は3つしか書いてませんが300円ではありません(笑)。
とてつもない数字でした。
「そんなの、家が売れてもお金残んないじゃない」
私は思わず言いました。
20年近くローンを払っていたにも関わらずかなり残っていた事に驚いたからです。
私達は家を買った時にもうすでにいい歳でしたから、ローンの年数を減らして月々の支払いを高く設定してました。
それから旦那は不動産屋さんから聞いた家の査定額を言いました。
私は予想をはるかに下回る金額に思わすつぶやきました。
「あんなにお金を払っていたのに」
まだローンが残っていたとは言え、もう少し手元に残るんじゃないかと思っていました。
金額に納得がいかなかった私が 「他にもいくつか不動産屋さんをあたってみて」と言うと、「そのつもり」と、旦那はそっけなく言いました。
もうすぐ長女に二人目の子どもが産まれます。
何かと人手がいるだろうと予想出来るのに居酒屋をやっていては手伝いに行けません。
その為に早く旦那と決着をつけたいという気持ちで私は焦っていました。
と同時に家を売ると言うことは一生に一度の事ですから、ここは慎重に行かなければいけないなと自分で自分を落ち着かせました。
もうここまで来たら後戻りは出来ないし、家や店の今後の事を旦那とじっくりと話し合いました。
皮肉なものでこの時は普段よりギスギスしないで普通の仲の良い夫婦の雰囲気になっていました。
離婚や家を売るなんて話しではなくて、まるで二人で旅行でも行く計画を練っているようなそんな雰囲気でした。
でも、この話に決着が着いたら私達お別れなんですよね?
お別れなんて思ってたよりも意外にあっさりと訪れるものですね。
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