<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:61
プロフィール:オカルトは信じない地方都市で再任用公務員をしている61歳の男性です。とは言っても不思議なことってあるものです。
今から15年ほど前、寒い冬の日の出来事です。
その日、妻(当時40代前半)は仕事で遅くなる予定で、娘(当時中1)と息子(当時小5)の3人でお好み焼きの夕食を済ませて、テレビを見ていました。
夜8時頃だったと思います。
玄関をガタガタっと開けようとする音がしました。
「あ...お帰り!」
妻が帰宅したと思った私はリビングから声をかけました。
子どもたちはテレビに夢中でしたが、私の声を聞いて妻が帰宅したと思ったのでしょう。
「おかえりなさい」と2人で声をかけました。
ところが、玄関から返事がありません。
そればかりかシーンとしています。
妻なら自分で鍵を開けて入ってくるはずですが、鍵を開ける音も聞こえません。
妻ではなかったのか、もしかしたら気のせいだったのか、と思い、玄関へ向かいました。
「...どちら様ですか?」
夜に来客があることはまずないので、薄暗い玄関を覗き込みながら恐る恐る声をかけてみました。
「Aです...回覧板です...」
歩いて5分ほどの場所に住んでいたAさん(当時70代)の声が聞こえました。
「え? こんな暗い時間に申し訳ありません。玄関の電気もつけてなくて...」
そう言いながら、慌てて玄関を開けたのですが、誰もいません。
そればかりでなく、「持ってきた」と言っていた回覧板もありません。
「おかしいなあ...誰もいないと思って引き返しちゃったのかな? でもこっちの声は聞こえてたはずだし...」
妙な気分になりましたが、寒かったこともあり、早々に部屋に戻って、そのときはあまり気にかけませんでした。
その翌日、また来客がありました。
今度は町内会の役員さん(当時60代)でした。
喪服を着ていらっしゃったので、どこかでご不幸があったのだなとすぐに分かりました。
「ご苦労さまです。どちらのお宅ですか?」
葬儀のお知らせを受け取りながら、なんの気なしに伺いました。
「いやあ、Aさん。昨夜亡くなられて...」
耳を疑いました。
「Aさんの所? まさか...」
「ねえ、ほんとまさかですよ。Aさん、お元気そうだったのにねえ」
「そんなバカな! Aさん、昨夜、回覧板を届けに...」
言いかけて、背筋がゾッと寒くなりました。
その日の夜、お通夜に出向きました。
お通夜の後、喪主であるAさんの息子さん(当時40代後半)にお悔やみの言葉をかけようとすると、衝撃の事実が明らかになりました。
「いやあ、昨日さあ、ウジさんのとこに回覧板を持ってくって言って、家を出たとこで倒れたんだよ。すぐ病院に運んだんだけど、その日の夜にねえ...」
「ほんとに突然で...あの、夜って...その、何時頃?」
「8時過ぎでした。倒れてから半日で亡くなるなんて、ねえ」
あの不思議な声を聞いた時刻と同じです。
寒気がしてきて、その場はお悔やみを伝えて早々に退散しました。
「風の音かなんかでしょ。気のせいじゃないの? ちゃんと声を聞いたわけなじゃないんでしょ?」
妻はその場にいなかったので、『気のせい』という一言で切り捨てられてしまいました。
一緒に声を聞いたと思った子どもたちは、
「お父さんがお帰りって言ったから、そう思っただけだよ」
「声? 聞こえたような気もしないわけじゃないけど...」
そう聞こえただけで、確かに気のせいだったのかもしれません。
回覧板を持っていけなかったことが、よっぽど心残りだったのでしょうか?
オカルトやら心霊現象やら信用しない私ですが、その声だけは不思議なくらい耳に残っています。
あの夜、Aさんの声を私は確かに聞いたのです。
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