<この体験記を書いた人>
ペンネーム:トリコ
性別:女性
年齢:49
プロフィール:結婚25年目にして自己中な夫(52歳)との別居を決断。映画鑑賞に読書、食べ歩きと自由な時間を満喫中。
施設に入所中の母(84歳)は、年相応の物忘れはあるものの、会話も通じて冗談も言える朗らかなおばあちゃんです。
唯一の楽しみは食べることで、リモート面会のたびに「焼きそばが食べたい、ラーメンもいいわね」とうるさいぐらいです。
ただ、そんな母も毎年夏になると暑さのせいで食事量が極端に減ってしまいます。
2021年の夏も酷暑だったためか例年にも増して食欲が落ち、施設の食事にほとんど手をつけない日が続いていました。
介護士さんの話によれば、母が好きな麺類や喉越しの良いアイスクリームなどを勧めてみても、少し口に含んだだけで「いらない」とそっぽを向いてしまう状態でした。
施設が近くならば毎日でも母の面会に行ったのですが、私(49歳)も姉(55歳)も実家から遠く離れた他県に嫁ぎ、面会は年に1〜2回だけ。
コロナが蔓延してからはパソコンの画面越しに10分ほどリモート面会を行うのみでした。
遠くにいても何かできることはないかと思って、食欲がなくても食べられそうな桃のゼリーを送ったり、リモート面会で孫たちの近況を話したりして元気づけていました。
私たち姉妹の心配をよそに当の母はというと...。
「困ったことにお腹がまったく空かないのよねぇ」
まるで他人事でした。
そうこうしているうちに2週間がたち、施設から姉の元へ一通の書類が送られてきました。
それは、母にもしものことがあった場合どのような医療を施すか、あるいは施さないか、どこで最期を迎えるか、家族の意向を確認する「看取り」の承諾書でした。
承諾書は来るべき日への備えであり、母が危篤というわけではありません。
とはいえ「看取り」の三文字は、親の死を身近に感じさせる十分な重みがありました。
「もしかしたら、今年がお母さんにとって最後の夏になるかもしれないね」
姉妹で話し合った結果、2人で施設まで直接会いに行くことを決めました。
実に2年ぶりの対面での面会でした。
施設側のコロナ感染対策により、面会時間は30分のみ。
面会専用の部屋でアクリル板越しに行われました。
介護士さんに車いすを押されて現れた母は、最後にリモート面会をした頃より痩せてはいたものの、肌の色艶は良く、私も姉も幾分ホッとしました。
一方、母は食欲がないせいで周りが心配していると思っていなかったようです。
「あんたたち2人してどうしたの? 〇〇さん(親戚)の葬式でもあったの?」
ずいぶんなごあいさつでしたが、それでも娘2人に会えたことで、いつも以上に笑顔を見せていました。
その後、看護師さんも面会室へやってきて、食欲がなくなってからの経緯を改めて説明してくれました。
「食事のたびに食べ物を勧めると、かえってお母さまもプレッシャーに感じるのではないかと思いまして...」
施設の職員の方々も母の心身についてはかなり気をつかってくれているようでした。
「費用もかかりますし、お腹が空かないとおっしゃっているので、お食事は止めようかと思っているのですが...」
看護師さんがそう提案したときです。
かたわらで聞いていた母が慌てた様子で話に割って入りました。
「ごはんを止めるですって!? そんなことしたら私は死んじゃうじゃないの!」
そのセリフ、食事を食べないあなたが言いますか?
看護師さんと私たち姉妹は苦笑いで互いの顔を見合わせたのでした。
その後、母の食欲は少しずつ戻り、心配な状態を脱することができました。
相変わらずリモート面会では食べ物の話題ばかりですが、人間は食欲があるうちが華だとつくづく感じます。
人気記事:70歳目前の夫と本当に仲がよい妹。ふたりを見て「50代おひとりさま」の私が考えたこと《中道あん》
人気記事:《漫画》パート先で53歳同僚のいじめのターゲットに!? もう許さない! 立ち向かうと決意した日<前編>
人気記事:《漫画》自分のミスはヘラヘラごまかす20歳年上の神経質夫。それを見た娘が鋭い一言を!<前編>
- ※
- 健康法や医療制度、介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず事前に公的機関による最新の情報をご確認ください。
- ※
- 記事に使用している画像はイメージです。