これは今から約10年程前を発端とする、ゲスな居酒屋大将(旦那)とその店を手伝っていた女将(私)のお話です。
前回の記事:カウンターは連日満席! 居酒屋の人気大将だった旦那の様子がなんだかおかしい?/オキガネ
ある日私は早めに家を出て店に出勤しました。
いつも私より数時間前に出勤して一人で仕込みをしている旦那を手伝うためです。
前日忙しくて材料や仕込みがほとんど無くなったのでさすがに一人で仕込んでいては開店まで間に合わないと考えたからです。
前日の閉店後。
私はカウンターで今日の売り上げの精算をしながら後ろのテーブル席に座っている旦那を振り返り、困ったようなそれでいて嬉しそうな声で言いました。
「なぁ~んにもなくなっちゃったね~仕込み!こんなの初めてじゃない?」
聞いているのかいないのか、旦那は自分でサーバーから入れた生ビールのジョッキを横に置いて携帯電話に夢中になっているようでした。
「これじゃ明日間に合わないでしょ!? 私も早く来て手伝うよ」
そこでようやく私の言っていることが伝わったのか、旦那はハッと気付いたような顔をして慌てて手で遮るような動作をしながら言いました。
「良いって良いって!お前も家の仕事があるだろ?」
その言葉を聞いた私は旦那が私の事を気付かってくれているのだと嬉しく思いました。
そして、私は密かに決心をするのです。
(明日は早く店に行って旦那を驚かせてやろう、仕事の負担が減って喜ぶだろうな)
そんな旦那の喜ぶ顔を想像しながら私は店に向かって歩いていました。
私たちが経営する居酒屋は駅から商店街を抜けた少し先の古い商業ビルの一階にあります。
今にも木の香りがするような木製のいかにもな和風の造りの居酒屋です。
入り口の引き戸の格子状のガラス窓の向こう側にはのれんが見えます。
いつも旦那は鍵をかけずにいることを知っている私は、いきなりガラッとその引き戸を開けてのれんをかきわけ、中の旦那に大きな声を掛けました。
「旦那ちゃん! 来たよっ!」
突然の出現に旦那はきっと喜んでくれるだろうと思っていた私の目に飛び込んできたのは、いつも一人で来ている常連の女性のお客さんでした。
女性は驚いた顔で振り返り、旦那は少し椅子から浮き上がったように見えました。
「あら? こんにちは」
私は怪訝な顔をしながらもその女性に挨拶をしました。
女性も私にあいさつを返すとソワソワしながら帰って行きました。
旦那はというと女性を見送った後にわざとらしく両方の腕を上げながら伸ばして首をまわし、疲れた感を装っていました。
「あの人は何しに来たの?」
私の質問に
「今聞いてただろ? 予約しにいらしただけ」と言う旦那。
その時旦那の目が泳いでいたのを私は見逃しませんでした。
私は違和感を覚えながらも仕込みを手伝い、開店に備えました。
開店してから暫くすると予約しに来たと言う旦那の言うとおりその女性は現れました。
予約した席は旦那が担当している場所のカウンターの席でした。
私はチラリと浮気を疑いましたが、この段階ではまだ浮気だと決定的な証拠がある訳でもないし、勘違いかもしれないから敢えて追及はしませんでした。
本当に私の勘違いならばどれだけ良かったことか......。
【まとめ読み】旦那がゲスを極めた!? オキガネさん記事リスト
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