認知症で感情の起伏が少なくなった祖母と、一緒に笑って泣いた日

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ペンネーム:YAKO
性別:女
年齢:37
プロフィール:祖父、祖母には貴重な介護体験をさせて頂きました。

※ 毎日が発見ネットの体験記は、すべて個人の体験に基づいているものです。

写真を撮るのが好きだった祖母の自宅には、沢山のアルバムが残されています。祖母の女学生時代の白黒写真から、祖母が亡くなる前の自宅療養中に、私が祖母に食事介助をしている姿を母(63)が写真に収めたものまで。
祖母は、昔から人脈が広く、人の世話を率先して行うことが好きで、祖父が自分の代で築いた小さな会社の事務をこなしつつ、お客さんとの会話を大切にする人でした。祖父が口数の少ない人だったので、お互いを補う良い夫婦だったというイメージが残っています。

約9年前、祖母は脳梗塞で倒れました。その後、認知症の症状が出始め、徐々に口数が減っていきました。感情の起伏がなくなり、以前の笑顔が多く話好きの祖母の面影はなくなってしまいました。ですが、周りの環境に恵まれ、週2日のデイサービスに通えば職員の方や利用者の方に話かけてもらい、自宅にいても訪問介護の方とお話したりと、家族以外との会話の接点が持てたのは幸せなことだったと思います。

祖母の介護が続き、最近自分の好きなものを買いに行ったりしていないなあと気づいた私は、気分転換にアロマオイルを購入、ネックレスに垂らしてつけてみました。何となく気に入り、しばらく付けて生活していたのですが、ある時、祖母が「何かいい匂いがするね」と反応してくれたのです。その香りは、祖母の好きな柑橘系のものでした。その頃、味覚や香りに無頓着になっている印象があったので、少し驚いたのを覚えています。

ある時、母が「お婆ちゃんの声がハスキーボイスになっちゃった。風邪をひいたかも知れない」と言うので祖母の様子を見ると、特に熱があるわけでもなく、具合は悪くなさそうなのですが、声のせいか若干不機嫌そうな雰囲気がありました。本人に聞いても調子が悪くないというし、確かに受け答えもいつもよりハッキリしています。直感的に、調子が悪いんじゃなくて逆に調子が良い日なんだと思いました。ちょっと低めの声が、元気な時の祖母の声のイメージに近かったからです。

そのうち、無垢な赤ん坊のような目をして素直な日は調子が悪い日、ハスキーボイスの日が調子の良い日だ、と何となく祖母の調子が分かるようになりました。

祖母の調子が良さそうだと感じたある日、いつものように一緒にアルバムを眺めていました。世話好きな祖母が、よく私の面倒を見てくれたのが思い出されます。髪が伸びて切ってもらった記憶もあったのですが、写真に残していたらしく、祖母が買ってくれたセーターを着て涙目になったオカッパ頭の小さな私の写真の下に、「髪型とセーター、どちらもお気に召されず」と書かれていて、思わず笑ってしまいました。

「これ覚えてる?」と話しかけると、本当に久々に見る自然な優しい笑顔で、「これな、この時は綺麗に切れたのに気に入らなかったみたいだよ」と教えてもらい、二人して暫く笑っていました。

そのあと、ふと祖父(享年74)の写真が目に入ると、当時、私が食事介護をしていた時の話になり、口数が少なく、厳格な祖父が、私が来て食事介護をするのを凄く楽しみにしていて、今日は来ないのかと心待ちにしていたんだということを教えてくれました。初めて聞いた話に、祖父がそんな風に思ってくれていたのかと思わず涙ぐんでしまいました。その時、祖母の目にも涙が浮かんでいました。

その日は、感情の起伏の少なくなった祖母の心の動きを、病気前と同じく感じられた日となりました。

健康法や医療制度、介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず事前に公的機関による最新の情報をご確認ください。
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